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     メタボリック症候群と糖尿病の危険な関係
                        東京医科大学 内科学第三講座 主任教授
                                          小田原 雅 人
   は じ め に
 メタボリック症候群の診断基準が一昨年決められましたが,厚労省がその予防に力を入れるということで,来年からメタボリック症候群対策の健診が始まる予定です.
 肥満の方がふえると様々な生活習慣病を発症する方がふえます.そしてさらに心筋梗塞や脳卒中など非常に命を脅かす病気がふえてきます.つまり,肥満傾向が強くなっていけば,次々と悪い方向へと向かっていくわけです.病気を発症する前から−予備軍といわれるような方々から−健診でつかまえて,早くから生活指導をし,場合によっては受診を早めに勧めていこうというのが今回の特定健診の主旨です.
 日本の医療のレベルは世界でも最も高いと考えられていますが,同様にこの健診のレベルも非常に進んでいます.欧米の先進国と比べても日本ほど健診が徹底しているところはありません.
 一方,欧米の先進国では肥満対策が後手に回り,大変大きな問題になっています.ヨーロッパもそうですが,特にアメリカでは,日本では考えられないような肥満の方がたくさんいて,危機的状況になっています.
 メタボリック症候群は糖尿病の類縁疾患ともいえます.肥満が糖尿病を発症する一つの大きな原因ですが,メタボリック症候群の方というのはただ太っているだけではありません.太っていると体にいろいろな異常を来してきて,一つ一つの異常がそんなにひどくない方であっても,動脈硬化症の危険因子が幾つもある方は結構危なくなってくる.したがって,健診で生活習慣病の軽い方々をつかまえていかないといけないということがいわれるようになってきました.
   生活習慣病と肥満
 生活習慣病は,昔は成人病と呼ばれていました.しかし,糖尿病,高血圧,脂質異常症等は,成人になってから起こる病気とは限らないのです.最近の世界的な問題は小児の肥満です.子供が運動不足になってお菓子,ポテトチップス,ファーストフードなどをいっぱい食べるようになってきて,小児の肥満が非常にふえてきました.そうなると,成人病という言葉は適切ではないので,生活習慣に基づく病気ということで生活習慣病と呼ぶようになりました.
 生活習慣病の代表的なものは,糖尿病,高血圧,脂質異常症です.脂質異常症は,以前高脂血症と呼ばれていましたが,2007年4月の日本動脈硬化学会のガイドライン改定時に脂質異常症と呼ぼうということに変わりました.今後も高脂血症と一般的にいわれることは多いと思います.しかし,脂質は高いほうだけが悪いわけではなく,例えば善玉コレステロールといわれているHDLコレステロールは低いほうが悪いのです.したがって,
高脂血症という言葉は必ずしも適切ではなく,専門家は脂貫異常症と呼ぶようになりました.
 それから,肥満が生活習慣病の原因として非常に重要視されるようになってきました.肥満があると尿酸も上がってきます.高尿酸血症,痛風という病気がありますけれども,足の親指のつけ根がはれて痛くなるという発作があります.1回経験した方はご存じの通り本当に痛い,風が吹いても痛いというぐらいものすごく強い痛みが起こってきます.痛みが起こらなくても尿酸が高いことが心筋梗塞や脳卒中に関連するのではないかと考えられています.
 そのほか,動脈硬化症の脳血管障害(脳卒中),虚血性心疾患(心筋梗塞)などが生活習慣病に含まれています.
 メタボリックシンドロームの状況が政府から発表になり,2,000万人ぐらいがメタボリック症候群,もしくはその予備軍であるということがわかりました(図1).40歳代になると男性は途端に多くなります.女性が少ないのは,実は診断基準のせいもあり,もしかすると今後診断基準は見直される可能性があります.日本だけが女性に非常に甘い基準になっています(図2).
   糖尿病とインスリン
 糖尿病はメタボリック症候群の親戚のようなものですが,現在定められている日本の基準ですと,メタボリック症候群の方の中には糖尿病の方も含まれる可能性があります.糖尿病があって肥満がある方,そのほかに糖尿病の予備軍で肥満がある方も含まれます.それと,糖尿病をまだ発症していない方も含まれます.ただ,肥満がある方は糖尿病を発症しやすいので,将来的にはそういう方々も予備軍,それから糖尿病の発症へとつながる可能性があります.肥満傾向が多くなってきますと、糖尿病の方は当然ふえるのです.
 インスリンという膵臓のベータ細胞から出る血糖を下げるホルモンがあります.反対に体の中には血糖を上げるホルモンはたくさんあります.なぜならば,ご飯を食べられないとき,飢餓状態のときに血糖値を保たないと脳細胞が死んでしまうからです.これまで氷河期とか,食べ物がない時期が非常に長く続いた歴史を生き抜くために,血糖値を保つことが重要だったわけです.脳はほとんどブドウ糖しか栄養分として使えないのです.ブドウ糖の濃度を保たないと脳細胞が死んでしまう.したがって,血糖値を上げるホルモンはたくさんでき,血糖値を保てる種だけが進化の過程で残りました.
 しかし,こんな飽食の時代が来るとは予測できない状況でわれわれは進化したので,血糖を下げるホルモンはインスリン一つで十分だったわけです.日本でも第二次世界大戦直後は糖尿病が非常に少なかったのですが,それからすると,現在は食べるものがあふれてしまったというわけです.
 糖尿病の発症には,インスリンの出が悪いこととインスリンの効きが悪いことの両方が関係します.インスリンかおる程度出ていても,うまく効かなければ,血中のブドウ糖がいろんな臓器で利用できなくなってきます.
 例えば,運動をすると筋肉がエネルギーを必要とします.血中のブドウ糖を取り込んでエネルギーとしますが,このときにインスリンが働くわけです.脂肪にエネルギーを蓄えておくにもインスリンが使われます.
 ところが,うまく使えませんとこちらに取り込めないので,血液の中にブドウ糖がたくさんたまってしまいます.
    糖尿病予備軍の重要性
 生活習慣病を防ぐには,遺伝的な素因は変えられないので,環境因子を変えていかないといけない.この両方がインスリンの効きを悪くしています.血糖が高くなったり,脂質の異常が出たり,高血圧が出たりといろんなことが起こってきて動脈硬化が進んでいくわけです.
 
 メタボリック症候群の日本の診断基準を満たす方で,どのぐらい心筋梗塞や脳卒中が多いのでしょうか.北海道で行われているデータで検証すると,メタボリック症候群と診断される方は,されない方に比べて大体1.8倍ぐらい心事故(心筋梗塞)が多い(図3).糖尿病の方は正常の方よりも3倍心筋梗塞や脳卒中が多い.糖尿病の予備軍の方は,まだ糖尿病ではないから大丈夫ですねと,皆さんおっしやいます.ところが,全然大丈夫ではないのです.この糖尿病の予備軍,病気でないという扱いの方々は脳卒中も含めて心筋梗塞を2倍起こしやすいのです(図4).
 メタボリック症候群が大騒ぎになっていますが,実は糖尿病予備軍といわれ放置されている方々も,実は危ないということです.つまり,両方危ないのです.メタボリック症候群の方も危ないですし,糖の異常かおる予備軍の方も同じぐらい危ない.したがって,メタボリック症候群の方がさらに糖の異常を発症したり,糖尿病を発症したりすると,極めて危なくなってきます.
 糖尿病を発症するとなぜ怖いのでしょうか.それは,いろんな合併症が起きるようになるからです.糖尿病の合併症には,細小血管症という糖尿病に特有の合併症,これには糖尿病性腎症,網膜症,神経障害の3つがあります.そのほか,動脈硬化,心筋梗塞,脳卒中,そして足の動脈硬化症.足が壊疽し傷が治らなくなってくる.傷が治らないので治療してもうまくいかず,切断せざるを得なくなる.糖尿病を発症することによって,たくさんの合併症が起こってきます.
 糖尿病を発症するとどのぐらい危ないか.糖尿病の方は男女かかわらず大体心筋梗塞の発症率が15年早い.もしくは死亡のリスクが15年早く起こる.健康な生活が15年早く障害されるということがわかっています.また,脳卒中も大体15年早く起こるということがわかっています.
    糖尿病の予防
 糖尿病の予防として,まず食べ過ぎを避け,腹7〜8分目を目安にしてください.また,1日30種類以上の食事をとることが必要です.そして,脂身,油物を控える.日本も食事が西欧化してきて,ファーストフードや牛丼を食べるようになってきてますが,控えてください.牛丼は和食ですが,非常に脂が多い肉を使っています.それから,1日3食きちんと食べる.一食一食を少なめにするというのが望ましいです.
 1日2食にしましたという方が結構いらっしゃるのですが,結果は必ずしもよくありません.おなかが非常にすいた状態でご飯を食べますので,早食い,まとめ食いになってしまい,結局のところ,肥満を助長してしまうということがよく起こります.ですから,少ない量できちんと3食バランスよくとるというのが非常に重要です.
 果たして生活習慣の改善をすると糖尿病の予防ができるのでしょうか.糖尿病の予備軍の方を対象にプラセボ(偽薬)を飲ませる群と,インシュリンの効きをよくする薬を飲ませる群,生活習慣を改善する群に分けました.インシュリンの効きをよくする薬を飲ませた群は31%糖尿病の発症が抑えられました.ところが,生活習慣を改善する群では58%も発症が抑えられたのです(図5).
    特定健診
 政府では来年の4月以降特定健診をやることになり,病院とか健診関係,企業の診療所はもうパニック状態でこの準備に追われています.糖尿病,高脂血症,高血圧症などを減らすというのが国の基本方針で,俗にメタボ健診といっています.しばらくは小さな混乱はあるかもしれませんが,基本的には生活習慣病を早期に診断するという方向性は正しいと思います.
 健診にお金がかかるというので随分国会で問題になりましたけれども健康増進という意味では早い時期からスクリーニングをしてひっかけていくということは非常に重要なことで,ある程度進んでからではかえって医療費がかかってしまいます.したがって,早めに対処することは長期的な医療費の抑制につながる可能性があります.例えば今,心筋梗塞を起こすと,入院してカテーテル検査,ステントといわれている管を入れたり,風船を膨らませたり,莫大な費用がかかります.もちろん保険はききますけれども,莫大な費用がかかった上に国民の医療費を圧迫するわけです.なおかつ,その後の生活は非常に制限される.今までのような生活はできなくなります.したがって,できるだけ早くから予防するというのが何といっても大事です.
    危険因子のコントロール
 生命にかかわる動脈硬化症の中では,心筋梗塞等の冠動脈疾患が非常に重要です.今,日本は悪性新生物というがんの死亡率が一番高く,どんどんふえています.しかし,脳卒中と心疾患死を合わせるとがんとほぼ同じなのです.
 血管の病気は危険因子といわれているものがふえればふえるほど危険性が高まる.加齢だけでも危険になります.例えば心筋梗塞の危険因子として認められている動脈硬化学会の基準は4月に変わりましたが,男性で45歳以上,女性で55歳以上というのが心筋梗塞等の動脈硬化の危険因子として数えられる年です.それに高血圧があったり,コレステロールが高かったり,糖尿病があったりすると,どんどんふえてくる.一つの危険因子当
たり死亡率が大体2倍になるといわれています.例えば高血圧がある方は死亡率が2倍ですが,高血圧と糖尿病があると4倍です.それにコレステロールが高いと8倍になり,倍々にふえます.
 しかし逆にいえば,一つの危険因子をコントロールすると半分4分の1となっていくわけです.したがって,8倍のものがいきなり4倍に減ります.4倍も2倍に減るということになりますので,いかにこの一つ一つの危険因子のコントロールが重要であるかということです.
 危険因子の管理は重要ですが,国民一人一人が重要度を認識しているかといいますと,認識があまりよくありません.女性は6割の方が肥満を認識しています.男性は45%しか認識していません.高脂血症,高血圧,高血糖のうち,高血圧に関しては以前から日本では脳卒中が多かったので意識が少し高いのですが,それでも6割の人は認識していないのです.ですから,高血圧に対する認識も不十分です.高脂血症では7割,もしくは女性で65%,3分の2の方は認識していません.糖尿病はもっとひどいです.75%,もしく90%弱の方が認識していないということがわかっているわけです.ですから,まず認識をすることが非常に重要です.
    食事と運動
 食事に加えて運動も大事です.なぜなら,まずカロリーを消費するからです.ブドウ糖を利用するのでやせる方向に向かうわけです.あとはストレスの解消になる.体力がつく.心肺機能も向上します.それともう一つ重要なのは,インスリンの効きがよくなることです.たとえ体重が減らなくても運動するだけでインスリンの効きがよくなるのです.しかも,この効果は約2日間持続するのです.したがって,体重が減る減らないにかかわらず,ぜひ運動をしていただきたいと思います.
 日本人は,運動をしなくなってしまいました.厚労省が出している国民栄養調査のデータでは,30代男性は2割しか運動していません.40代の男性も24%しか運動していない.30代女性は13%です.皆さん本当にしていなくて,むしろ高齢者のほうがまだましな状況です.しかも,これはどのぐらいの運動かといいますと,週2回以上で1日30分以上の運動を1年続けた方.これは非常にマイルドな基準です.つまり,ちょっとした運動をやっている,1日30分ちょっと歩くぐらいを週2回やっているだけの方でこれだけしかいらっしゃらないということです.ですから,非常に運動量が足りないのです.
 運動をしましたけど全然やせません,むしろ太りましたという方がいます.これはなぜかといいますと,運動するとおなかがすきます.おなかがすくと,随分カロリーを消費したのでご飯もおいしいので食べようというので食べてしまう.ところが,軽度〜中程度の普通に行う程度の運動というのは健康には非常にいいのですが,カロリーはあまり消費しないのです.
 ですから,食事療法を中心にしない限り,やせるのはまず無理です.ふだんと同じ,もしくはふだんより食べて運動でやせようというのは,まず無理だと思ってください.
 例えばマラソンの選手はたくさん食べても太りません.けれども普通の生活をしている方が食べたいだけ食べてやせるということは,まず不可能だと考えてください.
 100カロリー消費するのに,軽い散歩だと30分.それと,ウォーキング,早歩き.最初こちらで始めていただいて,少し早足ぐらいのほうがいいですが,それでも25分.自転車に乗っても20分が100カロリー.ジョギングでもかなり頑張って10分です.
 それから,ある程度お年の方で運動習慣がない方は,いきなりのジョギングは避けてください.少し前に伊勢市の市長さんの旗振りで,メタボ対策ということで市の職員皆さんで運動してやせようという競争をしてしまいました.いきなり激しい運動をして,課長さんが心筋梗塞で亡くなるという不幸が起こってしまいました.
 したがって,今までずっと運動していた方がその強度を少し上げるのはいいけれども,今まで運動をされていない方が急に運動するというのは必ず避けていただきたい.特に炎天下での運動は避けたほうがいいですし,熱中症などの問題もあり十分水分を補給して涼しいところで歩いていただくなど,極端なことはぜひ避けていただきたいと思います.
コレステロールのコントロール
 食事の管理は非常に重要で,中でも心筋梗塞に関係するコレステロールのコントロールが非常に重要です.コレステロールについては,いろんな情報が流れていて,必ずしも正しくない情報もありますが,とにかく,生活習慣病があったり,肥満がある方は,コレステロールの管理が非常に重要だということを覚えておいてください.
 日本人に多い脳梗塞もコレステロールの上昇と共にふえてきます.コレステロール値が高くなればなるほど,それだけ脳梗塞はふえることがわかっています.日本人が「New England Journal」という一流誌に発表したデータでも,脳梗塞とコレステロール値は同じような正の相関をするということがわかっています.コレステロールが高け
れば高いほど脳梗塞はふえます.
 コレステロールというのは,動物の脂をたくさんとると上がります.そのほかには卵の黄身とか魚卵類,内臓類によって上がります.
 フラミンガム研究によってコレステロールが心筋梗塞をふやすということがわかってきたので,アメリカでは強力なコレステロールの低下薬が出る前から生活習慣改善により,コレステロールの値が減りました.反対に日本では,和食というのは世界に冠たる健康食にもかかわらず,どんどん血中のコレステロールがふえてしまいました.日本人のコレステロール値はもう17年ぐらいアメリカ人と同じようなレベルで推移していますから,今後は相当動脈硬化に悪い影響を与えてくるということが考えられるわけです.
 コレステロール値は閉経後の女性は上がってきます.女性は閉経前は心筋梗塞が非常に少ないのですが,閉経後にふえてきます.コレステロール値も,男性は途中で下がってきますが,女性はどんどん上がってくるわけです.
 日本人の男女のコレステロールの摂取率をみると,10代,20代の方々のコレステロールの摂取率が非常に高いです.これは将来にわたって大問題になる可能性があります.若いうちにコレステロールや油物をたくさんとっていると,中年になってからその食事をやめるかというとやめません.
 糖尿病の主婦の方とお話をすると,うちは若い人が多いので油物ばかりになってしまうのですとよくおっしやいます.これはむしろ若い人の油物の多い食事が間違っているのです.若い人の食事を高い年代の方の食事に合わせるべきです.したがって,若い人だから油物を多くとらねばならないという認識自体を変えないといけません.
 コレステロールを下げる薬にスタチンという薬があります.HMG-COA還元酵素阻害薬という難しい名前がついているのですが,コレステロールの治療薬として世界中で広く使われています.この薬の効き目は非常に強くてかつ副作用が非常に少ない薬です.
 この薬を糖尿病の方に使ったCARDS試験というものがあります.ごく普通の2型糖尿病の方を対象に,片方にスタチンを飲ませます.片方にプラセボ(偽薬)を飲ませます.4年間追跡して,スタチンを飲ませた群では,心筋梗塞が37%も少なかった.つまり100人心筋梗塞を起こすところが,この薬を飲んでいるだけで3分の2になった.3分の1は単純に飲んでいるだけで心筋梗塞を起こさないで済んだのです.また,死亡が27%も違いました.つまり,4年間で100人亡くなるところが73人で済んだということです.この73人ももちろん救えればいいのですが,普通の治療をしてもこれだけの効果がある.こういう効果がある薬というのはほかに類をみません.いろんないい薬がありますけれども,生活習慣病関連で最も効果がある薬の一つです.
コレステロールを減らす食事
 コレステロールを減らすには,まずコレステロールをたくさん含む食事を減らしてください.卵の黄身が非常に大きいです.毎日卵を食べていますという方は結構いらっしやいます.そういう方はやはりコレステロールは上がってきますし,筋子とかの魚卵類,卵の類にはたくさん入っています.それと,肉の脂身です.それとレバーとかモツ,肝という内臓はコレステロールを原料としてつくりますので,たくさん含まれているのです.
 逆にふやしていただきたいのが食物繊維です.日本人は食物繊維の摂取率が下がっています.十分な量を食べていないということが調査からわかっています.海藻類とか野菜類,豆類とかキノコ類などは,カロリーがほとんどないものですので,いくら食べてもいい.腎臓が悪い方では野菜をあらかじめ煮たり,また制限したりする必要がありますが,とにかく普通の方では野菜類やキノコ類はたくさん食べてください.
 先はどから獣の肉をやめてくださいとお話していますが,実は魚の脂はいいのです.朝日新聞に「心臓病を防ぐには魚を食べよう」という記事が出ましたが,なぜかというと,アメリカで発表された試験で,魚をたくさん食べている人は心筋梗塞が連続的に減るということがわかってきたのです.
 日本では,EPAと呼ばれている魚の脂の成分の摂取率がどんどん下がっています.それと心筋梗塞や脳梗塞が逆相関でふえてしまっています.つまり,魚の脂をとる率が減って心筋梗塞や脳卒中がふえたということになります.
禁煙
 糖尿病の臨床試験で,どういうものが心筋梗塞を起こすのに一番影響があったかということを1位から5位まで調べたデータでは,影響が最も大きかったのは悪玉コレステロールが高いことでした.2番目は善玉コレステロールが低いことでした.3番目は血糖のコントロールが悪いことでした.4番目が血圧のコントロールが悪いことでしたけれども,5番目に喫煙があります.喫煙は非常に心筋梗塞をふやします.脳梗塞もふやします.がんもふやしますし,潰瘍もふやしますが,肺の疾患の原因にもなりますが,とにかくも動脈硬化に非常に悪いのが喫煙です.もちろん本数は多ければ多いほど悪いです.したがって,できるだけ少ない本数に減らしていき,かつできるだけ早く禁煙をしていただくことが大事です.
 何十年も追跡したデータでは,30歳前に禁煙された方の寿命は喫煙していない方と同じでした.30歳以降にやめた方は寿命が少しずつ短くなって,早くやめればやめただけ寿命が長くなります.
 単純に禁煙をしただけで危険度は相当下がるのです.ただ,普通の人と一緒になるには相当時間がかかりますが,1〜2年でも2割ぐらいは下がります.ですから,喫煙はできるだけ早くやめたほうがいいのです.周りにも迷惑になりますので.
血圧コントロールの重要性
 また,糖尿病の方は高血圧を合併しやすいです.
普通の方よりも高率に合併します.原因が共通し
ている部分かおるからです.糖尿病の方の血圧と血糖のコントロール状態によって心筋梗塞がどのぐらいふえるかを調査したデータでは,血糖の平均値が上がると心筋梗塞がふえ,血圧が上がっても同じようにふえるのです.両方高い方は,正常の方の5倍以上のリスクの上昇があることがわかりました.このような人たちは,血糖と血圧をコントロールすることによって初めて危険度が下がることがわかっていて,糖尿病がある方は血圧の管理も非常に重要です.脳卒中も血圧が下がれば下がるほど減ります.
 したがって,お医者さんと相談の上,血圧を下げるようにしてください.ただ,お年とともにだんだん動脈硬化がひどくなってきますと,薬を飲んでも下げられなくなってきます.ふらつきが出てしまったりとか,下の血圧が下がり過ぎてしまったり,そういう場合には少し高めでも仕方がないのですが,そうでなければ,きちんと下げることが大事です.
 また,糖尿病の方は腎臓も悪くなってきますが,腎臓を守るためにも血圧のコントロールが大事です.したがって,できるだけ薬は飲みたくないからと言って先延ばしにしていると,その間に腎機能が低下していきます.低下した分はもう戻ってはきません.
 血圧には食塩がかなり関係します.日本では食塩の摂取量が多いです.一時は日に13.5グラムを超えていましたがだんだん減ってきて,コンビニ弁当などの普及でまたふえてしまって,最近やっとまたちょっと減ってきました.けれども,世界的にみるとまだ非常に多いです.アメリカ人と比べると4割以上多いというのが現状です.
降圧目的と降圧剤
 日本高血圧学会がガイドラインを出していて,食塩制限は6g.今の日本人の平均は10gぐらいです.高齢の方ほど塩分が多い傾向にあります.また太った方ほど塩分の摂取量が多いです.できるだけ制限してください.あとは野菜をたくさんとる.先ほど申し上げたように,腎臓が悪い方は別です.また,果物は,糖尿病のある方はとり過ぎに注意してください.あとはコレステロールとか動物性の脂を控える.体重を適正にするということです.運動は有酸素運動を1日に30分以上を目標に,できれば毎日していただく.アルコールの量は多くならないようにする.それと禁煙が重要です(表1).
 降圧の目標値が以前より低めになっています.普通の方は130の85未満です.高齢者,65歳以上の方は,目標としては140の90未満になっています.糖尿病があったり,腎臓が悪い方は130の80未満が目標です.ところが,実際コントロールできているかというと,140の90未満を達成している人は4割もいない.糖尿痛がある方は130の80未満です.普通の方も今130の85ですが,130の80未満を達成している糖尿病の方は11%しかいらっしゃらないのです.つまり,きちんとコントロールされていません.
 高血圧の薬は,近年の医学の進歩によってものすごくよくなっています.昔,私が大学を卒業したころは,今から考えるとろくな薬がありませんでした.それでもたくさん種類が出ていましたけれども,なかなか血圧をコントロールすることが難しかったのです.ところが,最近は非常にいい薬が,しかも臓器保護作用のあるような,飲んだだけで心臓や腎臓を守ってくれるような薬まで出ているわけです.また,きちんと下げることが可能になってきました.
 問題は患者さんの意識です.血圧を下げたほうがいいことは,もう世界中のエビデンスが十分そろっています.下げられるかどうかはその方の状態にもよりますので,主治医の先生にご相談されたほうがいいですが,できれば下げられる範囲で低いほうがいいことはもう間違いありません.そのための薬もそろってきました.問題は飲んでいただけるかどうかです「血圧が高いようですから薬を出しましょう」といったら,「私は薬が嫌いなので,薬を飲まないで何とかしたい」,「血圧の薬は飲み始めると一生飲まないといけないから,私は嫌です」という方が非常に多いです.ですけれども,薬を飲まないでいらっしゃるよりも,薬をきちんと飲まれたほうが,たとえ一生飲むことになっても,この一生は相当長くなる可能性が高いです.ですから,できるだけ主治医の先生がおっしゃるように薬を飲んでいただきたい.
  しかもこの薬が非常に発達してきていろんな作用機序のものが出てきました.作用機序が違うものの組み合わせは非常に効果があります.しかも違う薬を組み合わせたほうが副作用が少ないのです.一般的に生活習慣病に使う薬は長年飲む薬ですので副作用がほとんどないものが大部分なのです.副作用が強いものは,生活習慣病の薬としては認められませんし,発売された後に副作用が見つかったものは早々に退場する運命にあります.これは会社側が自主的にやめるケースが多いです.会社の信用にかかわるということで,厚労省の指導がある前からやめてしまうという事例が最近多いのです.
  したがって,今残っている薬は非常に安全性の高いものが多いので,飲まないリスクよりも飲むリスクのほうがずっと少ないです.副作用がものすごく多いかのように報道されますけれども,実際は非常に少ない.しかも,主治医の先生にチェックをしていただければ副作用を避けることができます.一つのもので副作用が出たら,ほかの薬に変えればいい.飲まないほうがよっぽど危ないのです.
おわりに
 先日,別所にて特定健診の講義をさせていただいたのですが,企業の保健師さんから質問が出ました.ちょっとずつ問題がある方,糖尿病はないけれども,血糖値が少し高い方で,血圧もちょっと高く,脂質もちょっと高い,そういう方はどこに紹介すればいいでしょうかと.糖尿病の専門医を紹介しても皆さんものすごく多くの患者さんを抱えていてほとんど正常の方をみてくれないというお話でした.確かにごもっともで,糖尿病の専門医も高血圧の専門医ももっと門戸を広げないといけないのですが,現状では,難しいので,そのようなケースでは,ぜひ親切な開業医の先生にみてもらってくださいとお答えしました.
 それはなぜかといいますと,開業医の先生は,糖尿病のことも高血圧のことも脂質のことも知識があって,治療薬のこともよく知っていらっしゃるからです.幾つもの危険因子がある方がその都度3つの専門外来に毎月行かれるということはまず不可能です.高血圧の治療をされている方の6割以上は一般の診療所や開業の先生方で治療をされています.非常に悪い方,心筋梗塞を起こした方の高血圧の治療は大病院など専門医が担当するケースが多いですが,血管の病気を持っていらっしゃらない方とか回復された方は,毎月いろんな薬を処方していただける開業の先生にみてもらっていただくと長い間健康を保てると思います.
 ご清聴ありがとうございました.
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