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            急にお腹が痛くなったら
                               東京内科医会 理事,武石医院
                                          武 石 昌 則
 日常診療において,腹痛を訴える患者さんに遭遇することは非常に多い.患者さんの自己判断で薬を内服し,かえって症状が悪化することもある.たとえば,腹痛に対して,消炎鎮痛剤を内服し,腹痛が悪化する例も珍しくない.腹痛の原因を判断する上で重要なことは,便通異常の有無と発熱・嘔気嘔吐などの自覚症状有無をまず確認することである.便通異常では,下痢なのか便秘なのか,また血便が少量でもないかどうかを観察してもらう必要かおる.また緊急性の有無を判断することも重要なことである.最近では,画像診断の進歩により,緊急開腹手術が行われることはかなりすくなくなった.しかし,臓器の穿孔や破裂による腹膜炎は緊急施術の適応になる.その判断は遅れると生死にかかわる場合もある.
 以下,腹痛の病態整理・原因・診察・検査・対処について述べる.
 
   1.腹痛の病態生理
 一般的に,腹痛は内臓痛・体性痛・関連痛の3種類に分類される.内臓痛は,腹腔内臓器の伸展・虚血などで起こる消化管の筋肉(平滑筋)の痙攣で,胃潰瘍・十二指腸潰瘍などがあげられる.体性痛は疾患臓器に近接する壁側腹膜などから発生する腹痛で,腹膜炎などがあげられる.また関連痛は,疾患臓器から離れた部位に感じる疼痛で,十二指腸潰瘍での背部痛や,心筋梗塞での肩頸部痛などがあげられる.内臓痛の特徴は鈍い痛みで,痛みは周期的におとずれ,多くは病初期に発生する.一方,体性痛は鈍い痛みで持続的な疼痛で,多くは病期進行後であることが多い.
 
   2.腹痛の原因(狭心症・心筋梗塞でも腹痛が起こる?)
 腹痛の原因を探るには,その部位が重要な鍵となる.内科的な疾患では胃潰瘍・十二指腸潰瘍,急性膵炎などの疾患があげられる.外科では胆石症・急性虫垂炎・腸閉塞など,婦人科では卵巣炎・卵管破裂・子言外妊娠破裂,泌尿器科では尿管結石,膀胱炎などあげられる.また,意外な疾患として狭心症・心筋梗塞で上腹部痛や肩頸部痛を訴えることもある(図1).
   3.腹痛の診察
 診察の手順としては,問診・既往歴・全身状態の把握(特に発熱の有無)に加え,触診・聴診・打診が重要である.問診では,腹痛の特徴として空腹時あるいは食後に腹痛が増強されるのか否か,自己判断で消炎鎮痛剤などを内服していないか.さばやサーモンなどの生魚を食べたことはないかなど,いずれも問診は診断に重要なヒントを与えてくれることがある.触診は,ベツト上に仰臥位とし,両膝を曲げ腹壁の緊張を解いた体位で,腹痛を訴える部位は最後に触診するよう心がけ圧痛などを確認する.また聴診では,蠕動運動を確認し機械的イレウスで聞かれる腸蠕動音の亢進,また麻痺性イレウスの場合は消失を確認するが,少なくとも4〜5分間の聴診が必要である.打診では,消化管穿孔では肝濁音界の消失,イレウスでの鼓音の範囲拡大を聴取する.
 
    4.腹痛の検査
 一般的な検査では,尿・血液検査(白血球数・赤血球数・CRP・アミラーゼ他),胸部および腹部単純X線検査,超音波検(エコー)などがある.これらの検査は,無床診療所でも簡単に行える検査なので,腹痛を主訴として受診された患者さんには,行うべき検査と思われる.X線写真で最も重要であることは,フリーエアー(腹腔内遊離ガス)とニボー(鏡面ガス像)を見逃さないことである.フリーエアーを確認するには,腹部単純撮影よりも胸部単純撮影(立位)がよいと思われる.またニボーを呈した患者さんにはバリウム造形検査や内視鏡検査は禁忌である.これらの一般的な検査で,診断できない場合,さらには,消化管内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ),腹部CT検査,血管造影検査などで,精密検査を進める必要がある.
 
    5.腹痛の対処(消炎鎮痛剤を飲んで悪化することも)
 内臓痛は腹腔内臓器の伸展・虚血などで起こる消化管の筋肉(平滑筋)の痙攣である.また体性痛は原因臓器から近接組織への刺激で起こる.内臓痛の場合,平滑筋の収縮痙攣を抑制する鎮痙薬である抗コリン剤が有効だが,その副作用としてのどの渇き,動悸,排尿障害,眼圧上昇などがあり注意が必要である.また体性痛の場合,重症疾患であることがあり,癌性疼痛とよばれ治療に難渋することもある.非ステロイド性消炎剤や麻薬が用いられる.腹痛の対処で最も大切なことは,緊急性の判断を誤らないことである.
 時間とともに増悪する腹痛に対しては,より慎重に診断を進め,二次救急病院への転送の時期を誤らないことが大切である.
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