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         救急車の適正利用について
 ―増大する救急需要をふまえた新たな取組みについて一
                             東京消防庁 救急管理課 計画係長
                                          三 浦 弘 直
   は じ め に
 東京消防庁救急管理課計画係長の三浦と申します.東京消防庁には227隊の救急隊があり,私の仕事は,その救急隊の運用計画,救急の制度の構築などです.本日は,救急車の適正利用についてお話をさせていただきます.本来ですと,こういうケースには救急車,こういうケースは救急車ではないというお話をするのが一番いいのかもしれませんが,実際のところは個別事案のケース・バイ・ケースの話になってしまいます.
 そこで今回は,救急相談センターと救急搬送トリアージの概要についてお話をさせていただき,皆様に救急車の適正利用について考えていただければと思います.
 
   救急業務の現状と都民の声
 図1は,救急業務の現状と都民の声です.平成18年中の救急出動件数は68万6,801件,ほぼ70万件ちかく東京消防庁管内で救急車の要請があります.しかし,実際に救急隊が救護をして医療機関に行く方は少し減ります.それは例えば,ちょっと指を切ったりして,会社の
同僚の方が動揺して救急車を呼びます.実際に救急車が来ると,ご本人が「いや,私は救急車で行く必要はないですから自分で行きますから」と搬送を辞退される.したがって,出動件数に比べて実際に病院に行かれる方が63万人,5万人ほど減ります.実際の出動頻度は46秒に1回の割合で,東京消防庁管内で
は救急車が出動しています.東京消防庁管内は,ほぼ東京都の全域を網羅していますが,東久留米市と稲城市,及び島しょ地区については,それぞれ独自に消防業務をやられております.それ以外の東京都の区域は東京消防庁管内です.
 救急車出動の内訳(図2)ですが,68万6,801件のうち,6割が急病で呼ばれています.次にけがをしてしまったなどの一般負傷です.交通事故というのは意外と少なく1割程度です.搬送人員の内訳ですが,命にかかわる重症以上が7.8%.1週間以上の入院を必要とする中等症が3割.あとの6割が,実はその場で先生方に診察をしていただいて処置をすれば自宅に帰宅できる軽症です.救急要請69万件のうちの6割,その大半が軽症です.
 救急出動件数が,増加してくると,救急隊が現場に到着する時間も年々遅くなってきています.過去最高の約69万9,960件を記録した平成17年には消防署を救急隊が出発してから現場に到着するまでの時間が6分30秒かかっています(図2).5年前では5分30秒.救急出動件数がふえていくにしたがって,現場への到着時間も長くなってしまうのです.
 それぞれの救急隊には受け持ち区域があり,その受け持ち区域を所管する消防署の救急隊がほかの事案で出ていていないとなると,次は隣の消防署から来ます.その隣の消防署も救急隊がいないとなると,またその隣の消防署から来る.したがって,おのずと現場に到着するまでの時間が,どんどん長くなってきてしまうのです.
 平成18年には6分10秒に短縮されています.新聞記事等でもご覧いただいたかもしれませんが,この平成17年から18年にかけては救急車の出勤件数が若干減りました.これは冬場のインフルエンザが平成18年はあまりはやらなかったことが原因ではないかと言われています.それでも10年前と比較してみると,やはり1分遅くなってきています.この1分というのは,実は心臓がとまってしまったり,呼吸がとまってしまった方々にとっては,非常に大きな時間です.これを1分でも1秒でも短縮していくために,我々は努力をしているという状況です.
 東京消防庁では現在,227隊の救急隊を整備しています.平成15年度から毎年5隊,救急車5台ずつ増強しています(図3).
 一方,平成17年の4月1日から東京民間救急コールセンターを設置しています(図3).安定期の患者さんを現在の入院先から別の入院先に移動する場合とか,ご自宅からの入院や通院などいわゆる緊急性のない場合に,患者さんのご都合や希望に合わせての輸送をご案内するサービスです.
 ポスターもさまざまなものがあります(図4).緊急性がないものは民間救急のほうを使っていただく内容のものや.また,サポートCabを紹介するものがあります.これは救急車をタクシーがわりに使うという風潮を逆手にとった発想で,タクシーを通院手段に使おうではないかというものです.これは0575-039-099(オーミンキュー・オーキュウキュウ)のほうに電話をしていただくと,その時間帯にやっている医療機関をご案内させていただくとともに,利用者の方のところまでタクシーが迎えにいくサービスです.そういうサービスだと別途料金がかかるのではないかと,皆さんご心配されると思いますが,全く通常のタクシー料金と同じ料金です.

 もう一つ,東京消防庁では救急医療機関の案内をしています(図5).東京消防庁テレホンサービスというもので,休日や夜間に診察可能な病院をご案内する医療機関案内と,うちのそばで消防車のサイレンが鳴っているけれども どこか火事なのか.そういう問い合わせにも対応している窓口です.都内に360件ほど救急告示医療機関がありますが,その診療情報をリアルタイムに提供することができます.これは現場の救急隊が実際に使っている情報を都民の方々にも提供するものです.救急隊の出動時,まずどこの病院でみていただけるのかを確認しなければなりません.それを一件一件やみくもに当たっていたのでは時間がかかってしまう.このことを防ぐために病院のほうで,今日は診察可能
です,今日は入院可能ですという情報を事前にコンピューターに入れておいていただくのです.その情報を東京消防庁できちんと把握しておいて,都民の方からの問い合わせに対してお答えするものです.平成18年中の医療機関の案内状況については,約26万件のご利用をいただいています.
 ここで少し話を変えて,都民の方々の声をご紹介したいと思います.消防に関する世論調査の中で,実際に救急車を利用された方に対して,どのような理由で救急車を呼ばれたかというアンケートをさせていただきました(表1).これは複数回答になりますが,生命の危

機があると思った.自分が軽症なのか重症なのかよく判断がつかなかった.本当に自分で歩ける状態ではなかったという理由で救急車を呼ばれている方が大半です.しかし,その一方でこういう方々もいらっしゃいます.病院までの交通手段がなかった.そもそもどこの病院に行けばいいかわからなかった.夜間・休日で診察時間外だった,かかりつけの病院が休診だった.確かにこれはよくあるケースかと思います.救急車で病院に行ったほうが優先的に診てくれると思った.これは本当に不適切な利用ですね.
あくまでも緊急性の有無で病院のほうも対応していますから,絶対にあり得ません.
 図6に都民の声をまとめ,分析しました.緊急に医療機関を受診したほうがいいのかどうか.応急手当はどのように行ったらいいのか.そういうことに対して,きちんとした医学的見地からアドバイスをいただきたい.またあわせて,休日・夜間でも診療可能な医療機関の情報が欲しい.これらを分析すると,救急車を要請する前に,そもそも医療機関を受診することに関して,その判断をするための情報が十分に提供されていないのではないか.そのような問題点が出てきたわけです
   救急相談センターの概要
 消防総監の諮問機関である第26期東京消防庁救急業務懇話会に対して,救急車を早く到着させるためには,緊急性によって救急車を利用していただいたり,自分で行っていただいたり,きちんと区分けしなければいけないのではないか.そのためには,どのような方策をとったらいいのかということを諮問しました.
 平成18年3月に答申を受け,東京消防庁救急相談センターと,救急搬送トリアージ(試行)の運用を開始しました.都民の方々自身に緊急性の判断の適正化を促進することによって,本当に救急車を必要とする都民の方々に対して,適切かつ効果的に救急車を出動させることができるのではないか.その一助として,東京消防庁救急相談センターを開設しました
 東京消防庁救急相談センターは,東京都の重点事業になっています(表2).これは政策的に非常に重要な事項であるという場合には,知事の指示で,税金を集中的に投入して行なう事業です.
 既に本年6月1日から運用しており,24時間365日(年中無休)で体制を整えています.今までさまざまな救急現場を経験してきた救急隊の経験者が対応しています.これから団塊世代のOB職員がふえてきますので,そういう方々を中心に,電話の受付をやっていただいています.看護師は,東京消防庁のほうで新規に採用しました.医師については,東京都医師会の全面的なバックアップを受けています.夜間,救急相談センターに,救急隊の経験者と看護師さんと医師が24時間待機して,都民の方々からの救急に関する相談に対応しています.
 急におなかが痛くなったけれども,救急車を呼んだほうがいいのか,自分自身で病院に行ったほうがいいのか.そんなときには迷わず「#7119番]に電話をかけてください(図7).この#7119番は,固定電話のプッシュ回線,携帯電話,PHSで利用が可能です.ただ,都内の電話回線の7割がダイヤル回線(黒電話回線)ですので,つながらない場合は東京都内からだけですが,#7119番を携帯電話から押していただければ,救急相談センターにつながるようにしています.
 救急相談センターの主なサービスとしては,まず受診等の判断に関するアドバイスです(図8)救急車で行ったほうがいいのか,自分で夜間でもタクシーで病院に行ったほうがいいのか,それとも朝になるまで待って通常の診察時間帯に自分で行ったほうがいいのか.こういうことについて,きちんと医学的見地からアドバイスをさせていただきます.応急手当のアドバイスとか,診察可能な医療機関案内,当庁保有の医療機関情報,先ほどお話をした救急病院の情報はもちろんです.これは東京都福祉保健局とも連携をして,それぞれの地域のクリニック,診療所もすべてご案内できるような体制を整えています.そのほかに,行く
べき病院はわかったけれどもそこまで行くタクシーがないとか,うちのおじいちゃんは体が不自由なので民間の救急車の手配をしてほしいというご要望もあります.その場合には,先ほどお話をしました東京民間救急コールセンクーヘ,また医療費の相談や診療体制の相談については,福祉保健局が開設している窓口のほうに,電話を切らずにそのまま転送するという,いわゆる行政のワンストップサービスを提供しています
 図9は実際の救急相談センターのイメージ写真です.ご相談の中には,本人は救急車で行く必要はないと思って電話をかけてきたのですが,実際は救急車で行かないといけない状況だったということもあります.本来は,不必要な救急の出動を1件でも減らして,早く現場に到着するためということで始めたのですが,運用を開始してみると,実は本当に救急車の必要な方が119番を躊躇していたり,症状の重大性をあまり考えていなかったという現実も浮き上がってきました.
 実際に1件こんな相談がありました.「うちのおじいちゃんは,ふだん4時半ごろから起きて毎朝散歩に行くんだけど,今日は疲れているのか8時になっても,いびきをかいて寝ている」と.これはご家族の方から電話でした.本日のセミナーをお聞きいただいた方には,それが何を意味するのかはおわかりになると思います.直ちに救急車を出動させ,直近の脳外科へ搬送しました.このように本当に救急車が必要なのかどうかという相談の窓口として,救急相談センターを運用しています.
 図10をご覧下さい.まず救急隊の経験者で構成される救急相談通信員が電話を受け,医療機関案内か,救急相談の振り分けをします.医療機関案内なら,直ちに端末を使って医療機関案内をします.実際におなかが痛くなってきて,急いで病院に行ったほうがいいのかを相談したいとなった場合には,向かいに座っている救急相談看護師に電話を転送します.常時2名待機しています.そして,救急相談医として医師が座っています.頭にヘッドセットをつけていますが,相談看護師の相談状況を常にモニターしています.
 相談センターの特長の一つとして,どなたが相談をかけてきても症状が同じであれば,どの看護師が対応しても同じ(一定の)答えが出るところがあります.東京都医師会の救急委員会のプロジェクトチームで相談マニュアル一-我々はプロトコールと呼んでいますが-を100種類程度つくっていただきました.大人の頭痛,腹痛,子供のけが,目が痛くなった,想定されるさまざまな相談のルールをつくって,そのルールに基づいて救急車を出すべきなのか,ご自身で行っていただくのかを判断をするのです.東京都医師会の先生方のご協力がなければ,この相談センターは立ち上がっていなかったとつくづく思います.
    救急搬送トリアージ(試行)の概要
次に,救急搬送トリアージについてお話します(表3).救急搬送トリアージシート,いわゆる救急車の利用基準を今回定めました.これについては非常に大きな誤解を受けているところがありますが,緊急性が認められないと判断された事案については,無理やり搬送を断るのではなくて,ご本人の同意を前提に,「緊急性はそれほどないと思うのでご自身で行っていただけないか」というお話をして,ご白身で通院していただき,
救急隊は次の現場に備えるという制度です.本制度につきましても本年6月1日から試行しています. 本制度について,もちろん救急隊が勝手に基準をつくるわけにはいかないので,東京都メディカルコントロール協議会,すなわち救急医学の先生方に,きちんと搬送基準の安全性,実効性を確認していただいた上で,今回の試行を行なっています(図11).
 実際に東京都医師会のご協力を得ながらやったのですが,検証期間中約5万人の方々を搬送しました.その中で,この基準によって約415名,割合にして1%にも満たないのですが0.85%の方に緊急性が認められない,すなわち明らかに救急車でサイレンを鳴らして赤信号を通過してまで医療機関に行く必要はないと判断される方がいました.あわせて,収容先の医師の初診時程度判断でも,命にかかわる重症は1件もありませんでした.ただ,その415名の方のうち,入院をしなければならない方が5名出てしまったのですが,これは真夜中の交通事故で,車がぶつかってしまって病院に来られた方などでした.けがは軽いのですが,夜中に帰すわけにはいかないので,朝まで様子を見ていったらということになりましたが,それでも統計上は入院になってしまいます.しかしながら,ほとんどが軽症という医師判断を検証の中では受けています
 図12は緊急搬送トリアージのイメージです.まず119番が東京消防庁に入り,そこで実際に消防署から救急車が出動しますが,ここでお断りをするということは一切ありません.119番にかけていただいたら,すべての事案に救急隊は現場に出動します.
 そして,現場でトリアージシート(図12)を使って緊急性の判断をします.実際には,手足のすり傷,切り傷,打撲,軽いやけど,鼻血,全身には出ていないけれども,少し湿疹が出てしまったなどというほかに,不眠,不安などが対象症例になります. こういう方々に対して15項目について確認をします.「年齢15歳以上64歳以下である.」裏を返せば,65歳以上の方々は原則搬送ということで対応しています「重症と判断すべき受傷機転等に
該当しない」の項目では,例えば,車にはねられひじのすり傷だけだが,5メートル以上飛ばされたという情報が入ったときには,これはもう重症だろうという形で判断します.心疾患とか呼吸器系の疾患とか,現在治療中の大きな疾患はないとか.あと切り傷ですが,自殺で手首を切ったというような方は今後の対応がありますので,医療機関へ搬送します.バイタルサインでは,血圧は正常の範囲か,呼吸は正常の範囲か,出血は既にとまっているかなどを判断し,この黒枠の中の15項目すべてにチエツクが入った段階で,緊急性が認められる場合には,通常どおりの救急活動を行っていきます.緊急性が認められない場合は,「ご自身で通院していただけないか」とお願いします.
「診察可能な病院がわからない」という声には「救急隊が持っている病院情報をご提供いたします」.「タクシーを呼んで欲しい]という声には「サポートCabをご案内いたします」.そのような形できちんと同意を得た上で,ご自身で通院をしていただくというような形です(図13).
    東京消防庁救急相談センター運営協議会
 東京消防庁救急相談運営協議会について簡単にお話をさせていただきます.
 東京消防庁救急相談センターは,救急車を出すのか出さないのかという判断をする機関としてその構想がスタートしました.しかし,医師会の先生方,救急医学の先生方からさまざまなアドバイスをいただいて,救急医療に関する相談窓口として,東京都の救急医療体制の一端を担っていくことが期待されるようになりました.したがって,きちんと医学的見地から支えられた相談センターにしていこうと,東京消防庁救急相談センター運営協議会ができました.会長は昭和大学病院の有賀先生にお願いしています.メンバーは,東京都福祉保健局,東京都医師会,救急医学に関する専門の先生方,当庁職員で構成されています.いわゆる四者連合という形です.今までは,福祉保健局は福祉保健局,消防庁は消防庁という面があったのですが,四者連合してできちんと相談センターの質を担保していこうではないかということになりました.本運営協議会は相談ルールを適時見直しするなど毎月開催しています.このように相談センターの質をきちんと担保して,#7119を運用しています.
    おわりに
 今までの救急業務は搬送と救急処置でした.救急隊を今後も増強していくことはかなり難しい状況になってきています.これからは救急相談という分野に力を入れていきたいと思っています(図-14)。

ケガや病気など体の不安があるんだけれども,急いで病院に行ったほうがいいのかな,朝まで様子を見ていいのかなと不安になられることがあると思います.そういうときには#7119,迷わずこの救急相談センターのほうにかけていただきた
いと思います.
 それでは,これからの東京の救急体制が,これを機会に少しずつ変わっていくことを期待して私の話を終わりにしたいと思います.どうもありがとうございました.
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