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  メタボリックシンドロームはこう治す 一運動療法編−
                                                東京内科医会 常任理事
                         須 藤 秀 明
   はじめに
 2005年の4月に日本高血圧学会・糖尿病学会・動脈硬化学会・肥満学会など日本の代表的な8学会が合同で日本人の「メタボリックシンドローム」という内臓肥満を中心として動脈硬化の進展を予防する概念が提唱されました.メタボリックシンドロームを構成するそれぞれの疾病,すなわち内臓肥満の存在のもとに,空腹時血糖値の上昇,高中性脂肪血症または低HDLコレステロール血症と高血圧は,それ自体単独で動脈硬化の発症・進展を促進するリスクファクターであることはすでにわかっています.すでに単独で発症している疾病については,当然治療がなされるべきですが,「病気と診断するほどではない発症寸前の段階」いわゆる未病の段階であっても,それぞれが重なると動脈硬化の進展を促進することがわかってきました.
 生活習慣は食事(栄養)・運動・睡眠(休息)の3本柱で支えられています(大人においては,これに喫煙とアルコールが加わります).この3本の柱のどれが歪んでも,生活習慣は乱れてきます.現代社会の便利な生活の中では,過栄養と運動不足の影響による内臓肥満者が急増しています.実際に平成18年度の国民健康・栄養調査においても,運動習慣の比率は男女ともに30%程度であり,男性では30歳代で最も低く(17.5%),女性では20歳代が最も低い(17.1%),という結果でした.
 今回は,メタボリックシンドロームの運動療法編として,生活習慣の中の運動の部分を今一度見直していただける場になればと考えています.
 
   メタボリックシンドロームにおける運動の効果
 メタボリックシンドロームにおける運動の効能は,@食事療法との併用で体脂肪(内臓肥満)の減少を中心とした減量が可能,A運動の慢性効果として,末梢組織のインスリン感受性を改善し,高血糖・高インスリン血症を是正することにより,糖尿病の進展予防・合併症予防作用,B血中コレステロールや中性脂肪の低下など脂質代謝を改善し,脂質代謝
改善・動脈硬化性病変の進展予防・高血圧の予防改善作用,C筋力の増強と基礎代謝亢進,骨のカルシウム損失の防止により,肥満になりにくい体格と骨粗しょう症の予防作用,D心肺機能が改善し,持久的な運動能力の向上作用,E免疫能が賦活化,F爽快感・ストレスの解消・脳神経系の活性化,などたくさんの効能があげられています(図1).しかしながら,やりすぎるといろいろなトラブルが生じ,欠点にもなりかねません.また「運動しなさい」といわれても,どのように運動すればよいかわからないという人も多いと思います.
   運動処方の考え方
 我々が運動処方をする際には,以下のような点に注意し指導しています.@安全であること,A運動能力の向上が得られること,B薬剤の投与下における運動であること,Cコンプライアンスが良好であること(継続性かおること),Dリスクフデクター(危険因子)の改善が得られること,E精神面での充実が得られること,FQOLの改善が得られること等があげられますが,特に安全であることが重要であり,そのためには有疾患者においてはできるだけメディカルチェックを受けることが必要です.
 このようにして,運動許可が確認された人に対して,我々は,@運動の種類,A運動の強度,B運動継続時間,@運動の実施頻度,D運動の時間帯をそれぞれその人のライフスタイルにあった運動処方を作成していきます.
 
   メタボリックシンドロームの予防に適した運動処方とは
 前述した運動処方の作成に洽って,メタポリックシンドローム予防のための運動について考えてみますと,運動の種類はなるべく全身を使った有酸素的な運動であることはすでにご存知のことと思いますが,どのような有酸素運動であっても運動強度が強すぎると,有酸素域を超え,無酸素的なレベルに入ってしまいますので,個人個人にあった運動強度の設定が必要となります.
 「自分の適正な運動量ってどのくらいなんだろう?」と思われる方に簡単にできる「適正な運動量の設定」には以下のような方法があります.
 @自覚的運動強度.軽い〜ややきつい程度、運動中に感じる自分の気持ちで,軽い〜ややきついなと思う程度の運動
 A脈拍数を測る方法.多数の設定式がありますが,簡易法としては,
  設定脈拍数=135一年齢/2(最大酸素摂取量の50%に相当)
  運動直後の脈拍を測り,上記の計算式で求めた脈拍数を超えないようにする.
 このような運動の程度で,運動時間は1回にウオーミングアップからクーリングダウンまで入れて1時間程度が適当でしょう.またこのような運動を週に3日〜5日行うことが望ましいようですが,週に2日でも予防には効果があるといわれています.運動の時間帯については,早朝はできるだけ避けるか,十分な準備運動を行ってから運動するように心がけ,糖代謝を考えると食後1時間ごろが望ましいとされています.
 
   健康づくりのための運動指針2006
 しかしながら,「わかってはいるんだけど,なかなかねえ…、忙しくても時間も場所もないし,スポーツはあまり得意なほうじゃないし,この不景気の世の中,それどころじゃないよ!」と思われる方は多いのではないでしょうか? 運動やスポーツをするというように堅苦しく考えずに,身体活動量(身体を動かす量)を増やすというぐあいで考えてみられてはいかがでしょうか.
 運動所要量・運動指針の策定検討会は,「健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド2006)」を発表しました.この指針は,生活習慣病の予防のために,運動も含めた身体活動全体を考慮し,現在の身体活動量や体力の評価と,それを踏まえた目標設定の方法,個人の身体特性及び状況に応じた運動内容の選択,それらを達成するための方法を具体的に示したものです.
 このエクササイズガイドでは,「身体活動」を安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動きのことと定義し,「身体活動」の中には体力維持・向上を目的として計画的・意図的に実施するものを「運動」,職業活動上のものも含む運動以外のすべての動きを「生活活動」と定義しています(図2).
 そして,この「身体活動量」の単位をエクササイズ(EX)として表現し,
「身体活動量」(EX)=身体活動量の強度(メッツ)×活動の実施時間(時)
で表されます.メッツとは,身体活動量の強さを表す単位であり,椅子に座って安静にしている状態を1メッツとし,その何倍に相当する強度かで表しています.ちなみに普通の歩行が3メッツ,早歩きは4メッツに相当します.たとえば,普通の歩行を1時間実施すると,歩行にかかる身体活動量の強さは3メッツですから,
3(メッツ)×1(h)=3(EX)となり,早歩きは4メッツだから
30分間歩くと,4(メッツ)×0.5(h)=2(エクササイズ)となり,毎日30分間の早歩きを日課とすると2(EX)×7(日)=14(EX)となります.
1エクササイズに相当する運動と生活活動の例(図3)を参考ください.
 生活習慣病予防のための運動量としては,身体活動量として,週に23エクササイズ(メッツ・時)以上の身体活動(運動・生活活動)を行い,そのうち4エクササイズ以上の活発な運動(中等度以上)を行い,メタボリックシンドローム該当者の運動指針として内臓脂肪を確実に減少させるためには,週に10エクササイズ程度かそれ以上の活発な運動量を目標としています.
 東京都福祉保健局は「打倒メタボカード」を作成し,広く一般に公表しています(インターネットよりダウンロード可能).このカードを使ってご自分の日常の運動量・身体活動量を記録しながら,現在のご自分の活動量について見直していただく参考にしてください(図4・5).

   おわりに
 まずは,日常の生活の中で,身体活動量を増やすように始めましょう.お勤めされている方は会社の中ではできるだけ階段を使ったり,買い物へは自転車を使わずに歩いていく,歩く時もスピードに強弱をつけながら歩くなど,生活のリズムを崩さずに無理なく身体を動かすように工夫しましょう.すでに生活習慣病の疾病のどれかにかかってしまっている方でも病状が安定していれば,日常の生活範囲内の身体の動きであれば,ほとんど心配なく実行することができるでしょう.運動=スポーツと考えずに,日常の生活の中で身体を動かす方法を考えていくことでメタボリックシンドロームに打ち勝つ方法を考えていきましょう.
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