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パネルディスカッション「健診結果の読み方」
         特定検診と肝機能検査
                                                東京内科医会 理事
                        石 川   徹
   1.メタボリック・ドミノと脂肪肝
 今年から始まった「特定検診」は「メタボリック症候群」を対象にしています.腹囲を基準に血圧測定や血液検査による脂質,血糖などにより判定されることになっています.しかし,特定検診にはメタボリック症候群の診断には一見,関係しない肝機能検査も含まれています.どうしてでしょうか.
 メタボリック・ドミノという概念があります.遺伝的要素に生活習慣が加わって内臓脂肪が蓄積し「肥満]が発生,「インスリン抵抗性」の状態となり,次第に「食後高血糖,高血圧,高脂血症」を発症,放置しておくと様々な合併症を引きおこし最終的には「透析,失明,脳卒中,心不全」などにまでドミノ倒しのように進行していくというものです.実はこのドミノ倒しのかなりはじめのほう,食後高血糖などに続いて「脂肪肝]があるのです.つまり,メタボリック症候群の早期の診断,対策に肝機能障害,脂肪肝が関与しているというわけです.
 実際,脂肪肝でのメタボリック症候群関連の各疾病の合併率は,脂質代謝異常が約50%,高血圧が約30%,高血糖が約30%と高率であり,そしてメタボリック症候群に該当する方は約30%といわれています.
   2.検診での肝障害の発生率は
 特定検診で行われる肝機能検査はGOT(AST),GPT(ALT),γ-GTPの3種類です.これらの肝機能の数値が基準値を超える方はどれくらいおられるでしょうか.
 人間ドックなどの結果によれば1980年代から肝機能障害は肥満や高コレステロール血症とともに増加を続けています.東京都板橋区の基本健康診査の結果をみてみます.板橋区では基本健康診査は35歳以上の一般住民が対象ですが,平成18年度の受診者は男性32,984人で肝機能異常者は7,065人(21.4%)女性59,614人で肝機能異常者は9,351人(15.8%)であり,男性では5人に一人,女性では6人に一人という結果でした.年齢別にみてみると男性の場合は30歳代から20%を超え,40〜50識代半ばまでは30%にもなります.一方,女性の場合は30歳代では10%以下と少なく,50歳代から増加し約20%となってきます(図1).
   3.肝障害の大部分は「脂肪肝」
 肝機能障害の原因としては多数のものが考えられます.ウィルス性の肝炎(B型,C型肝炎それぞれの罹患率は板橋区の肝炎ウィルス検診ではそれぞれ約1%),薬剤性の肝障害,自己免疫性の肝障害などですが,一般検診で発見される肝機能障害の原因の大部分は「脂肪肝」であるとしてよいでしょう.そして,この脂肪肝が先ほどのようにメタボリック症候群と関連してくるわけです.
 脂肪肝の場合,その原因は大きく分けると2つになります.一つがアルコールの多飲によるもの,もう一つが非飲酒者における脂肪肝です.アルコールの多欲による脂肺肝は血液検査でγ-GTPの上昇が特徴的です.正常値は男性の場合80以下ですが,この数値が100以上に上昇し,続いてALTやASTなどの肝機能が異常になってきます.この状態でさらに飲酒を続けると,アルコール性肝炎さらには肝硬変にまで進行してしまいます.治療法はアルコールを控えることが第一です.飲酒が習慣になっている方は週に2回は飲酒をしない「休肝日」をつくること,血液検査を時々行いγ-GTPを基準値内,あがっても100未満にコントロールすることが必要です.なお「アルコール依存症」と診断された方は完全に断酒しなければなりません.
 最近増加しており,肥満やメタボリック症候群と密接に関係しているのが飲酒と関連しない非飲酒者の脂肪肝です. 
   4.NASHとNAFLD
 アルコールが原因ではない脂肪肝として2つの疾患の概念が提起されています.「非アルコール性脂肪肝炎(Non Alcoholic Steato Hepatitis :NASH)」と「非アルコール性脂肪性肝疾患(Non Alcoholic Fatty Liver Disease : NAFLD)」といわれるものです.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とは1980年に米国で提案されたものです.多飲歴がない(週に1回以下)にもかかわらず,組織学的にアルコール肝炎に類似し,肝硬変への進展をみとめる20症例を報告し,中年以降の肥満・糖尿病の女性に好発するとしています.その後,1986年により広い概念として,飲酒歴がない(20g/日にもかかわらず,アルコール性肝障害に類似した組織像を示す多くの成因による疾患群をまとめて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)として提案されました.NAFLDの90%は単純性脂肪肝で,10%がNASHであると考えられています.
 はじめにお話ししたように遺伝的な要因に生活習慣が加わり,インスリン抵抗性,肥満状態から脂肪肝が発生します.この過程をファースト・ヒットといっていますが,この状態に酸化ストレスや細胞障害といったセカンド・ヒットが加わった場合にNASHに進展すると考えられています.
   5.脂肪肝の診断
 脂肪肝の診断方法です.血液検査においてAST,ALT,γ-GTPの軽度(通常100以下)の上昇がみられ,さらに画像診断といわれる腹部の超音波検査あるいはCTにより脂肪肝に特徴的な所見がみられますので,通常は血液検査に画像診断を加えて診断することができます.なお,血液検査によりウィルス性の肝疾患や自己免疫性の肝疾患を否定すること,問診などで,アルコール性の肝障害を除外しておくことが必要です.また脂肪肝とNASHの鑑別は,血液検査や画像診断では一般に困難であり(進行したNASHの場合には血小板の減少やヒアルロン酸上昇など,肝硬変を示唆する数値を示しますが)確定診断のためには肝生検を行って病理学的に診断を行うしかありません.
 
   6.脂肪肝の予後
 NAFLDの90%を占める単純性脂肪肝の予後は良好であり病態が進行することはほとんどありません.一方NASHの場合,予後は必ずしも明確ではないものの,5〜10年で5〜20%が肝硬変に進行するとされ,さらにその一部は肝臓がんになるといわれています.NASHの悪化が予想されるのは,AST80以上が持続する,糖尿病や高度の肥満を合併している,生活習慣の是正ができない,が特徴とされており,脂肪肝でこのような状態に当てはまる方は特に注意が必要です.いずれにしてもNASHは脂肪肝から進展していきますので,脂肪肝を放置せず,きちんと治療することです.脂肪肝の治療は,あくまでも食事療法と運動療法が基本であり,肥満を解消することが原則です.
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