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       パネルディスカッション「市民の疑問に答える」 
        ジェネリック薬品について
                                               東京内科医会理事
                         須 藤 秀 明
   はじめに
 最近,各自治体において「ジェネリック医薬品を希望します」という区民の意思表示するためのカードが配布されている.このカードを医療機関の窓口に出すことによって生じてくる医療機関と患者さんとの間のトラブルが生じているのも事実である.当院が所属する足立区においても行政に苦情が届いているそうで,内容は「勇気を出してカードを出したが断られた」「思ったほど安くならなかった」などが多いとのことである.
 2008 年におけるジェネリック薬品の医薬品全体に占める各国の使用状況をみると,アメリカの68.6%につづきカナダ・ドイツ・イギリスと60%以上を占めているのに対して,日本の割合はわずか20%に満たない現状がある.医療費の節約のために同じ成分であれば安価な薬を使用させようとする国の考え方と,我々使用する側が考えているジェネリック薬品との間にギャップがあるのではないか.足立区医師会会員を対象に行ったアンケート調査の結果も含めて,今後のジェネリック薬品の在り方について考えてみたい.
   先発医薬品とジェネリック医薬品
 ジェネリック医薬品とは何かを考える上で,避けて通れないのが先発医薬品の存在である.
 そこでまず,先発医薬品について,その製造工程や特許の関係などを含めて述べてみたい.
 先発医薬品とはいわゆる「新薬」のことであり,その研究開発には非常に長い期間と莫大な費用がかかっている.合成化合物の抽出研究からはじまり,非臨床試験(理化学的試験・毒性試験・薬理試験・吸収,分布,代謝,排泄試験),臨床試験(第1相〜第3相試験)を経て承認申請となる.製薬協研究開発委員会加盟23社の集計による5年間
の統計によると,研究開発期間に9〜17年かかり,1成分あたりの開発コストは平均約500億円で,5年間で563589 種の合成化合物が研究され,その中から26 種の新薬が作られているが,その成功率は実に21677分の1 であり,多くは途中で開発を断念せざるを得ない危険性をはらんでいる.これに対して,ジェネリック医薬品はもともと先発医薬品として使用されている成分であるので,開発には3〜5 年程度で開発コストは数千万〜1 億円程度であるとされている.これだけ医薬品として販売されるまでの過程に差がある新薬(先発品)とジェネリック医薬品であるが,そのかわりに先発品は製品として販売されるまで取得される特許,物質特許・用途特許・製法特許・製剤特許があり,これらの特許により最初の特許申請から20〜25年間守られている.新薬(先発品)が販売されてから,少なくとも物質特許と用途特許の期間が切れなければ,ジェネリック医薬品は開発に着手できない.逆にいえば,物質特許と用途特許の期間が切れれば,製法特許と製剤特許の期間が残っていても,これらの特許に触れない製法と製剤を開発すれば製品化できることになり,これがジェネリック医薬品メーカー間の企業格差になっている(表1,図1).


 ここで我々使用する側から考えた場合,薬剤の成分が全く同じものであっても,製法と製剤の異なる薬剤が,はたして先発品と全く同じ効能効果が得られるのか? という疑問である.厚生労働省はこの疑問に対して,ジェネリック医薬品の認可の際に,製剤の性質確認試験・製剤の規格試験・製剤の安定性試験・生物学的同等性試験の提出を義務化し(表2),その評価が±2 SD の範囲であれば有意差なし(同等)と判断され,効能・効果が同等であると判断している.しかしながらこれらの試験は,それぞれのメーカーに任されており,試験の対象は健常人で,例数も20 例前後と少なく,臨床試験をおこなう必要はない.つまり同じ成分であり,健常人で生物学的同等性などが立証されているなら,新薬(先発品)が承認時に行った臨床試験と同等な効果効能が得られているはずであると判断している.確かに,新薬(先発品)


とジェネリック医薬品は統計学的に同等であるといえるが,ジェネリック医薬品どうしは必ずしも同等とはいえない.たとえばA というジェネリック医薬品が先発品にたいして+0.14であり,B 薬が−0.15であったとき,A 薬・B 薬ともに標準薬(先発品)と比し,±0.2を満たしているため同等性ありと,判断できるが,A薬とB 薬どうしは絶対値で0.29 の差があり,同等とはいえないことになる.先発品(新薬)とジェネリック医薬品の相違点を(表3)にまとめる.
   医師のジェネリック医薬品に対する考え
 ジェネリック医薬品についてH20 年11 月に足立区医師会会員に対してアンケート調査をおこなった.この結果より,臨床現場における医師がジェネリック医薬品に対して,どのように考えているのかを述べてみたい.対象は足立区医師会員559 名であり,回答者190 名,回収率33.99%である.回答者医療形態は開業医が67%,勤務医32%であり,専門性の内訳は,内科99名,小児科28名,整形外科17名,外科14名,産婦人科12名,皮膚科11名,耳鼻科11名,眼科9 名,神経科6 名,精神科6 名,泌尿器科3 名で,年齢は32〜85歳,平均年齢56.75歳であった.今回は16 にわたる質問項目のうちから,6 項目の質問に対する回答を紹介する.
 ジェネリック薬品の副作用を経験したことのある医師は10%程度であり,そのときのメーカー対応についての質問では,「対応が遅く信頼が持てなかった」「まったく対応がなかった」の両者で50%を占めていた.またジェネリック薬品を処方したが,先発品にもどした経験がある医師に理由をたずねたところ,「効果不十分のため」が44%と最も多かった(図2).
 ジェネリック医薬品に対してもエビデンスは必要か? の質問に対しては,81%の回答者が「少数例であっても臨床成績は必要である」と回答しており,「エビデンスを得るための

臨床研究がはじまれば参加するか?」の質問に対しては,「参加してよい」「状況によっては参加」の両者で52%であった(図3).ジェネリック医薬品の今後について,国民皆保険制度の維持にジェネリック医薬品は必要か? に対しては,55%の回答者が必要であると回答し,今後のジェネリック薬品の処方については,「今後使用していきたい」18%「安心できるものであれば使用していきたい」60%と8割近くが今後使用していく意思があることが示された(図4).
 このアンケートの結果から,ジェネリック医薬品の使用に対して,必ずしも否定的ではないことがわかるが,ジェネリック薬品の処方に不安視する医師の言い分としては,
① 臨床試験なしで本当に先発医薬品と同等の効果があるのか? また,ジェネリック医
薬品どうしの効果は同等といえるか?
② 長期にわたり,安定供給されるのか?
③ 保険診療で処方する場合,承認の時点で先発医薬品と同じ効能が得られているか?
④ 処方した後にジェネリックに変更したことが原因でトラブルが発生した場合の責任の
所在はどうなるのか?
⑤ ジェネリック薬品を選択する場合,上記の不安を解消できる情報があまりにも乏しいなどの理由により,数多く出ているジェネリック医薬品のなかで「どの製剤が安心して(責任を持って)使える薬かわからない」というのが本音ではないだろうか.
   おわりに
 これら調査結果も踏まえて,今後ジェネリック薬品を普及させるためには,①医師が安心して処方できる,または薬剤師が安心して変更できるような体制作りと情報の提供が必要である.②ジェネリック薬品の精度管理を監視できるような第3者機関の成立.③ジェネリック薬品を国民だけでなく,医師に対しても(安全面も含めて)理解させていくこと.等が必要ではないだろうか.このためには,各地域における普及活動と行政を中心とした地域独自性の協議会(医師会・薬剤師会・歯科医師会も含めた)などの設立が必要であり,行政・製薬会社・患者・医療のどのサイドからも納得できる体制作りと公正な情報の開示が必要であろう.
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