都民の皆様表紙に
もどる
 2009年東京内科医会
市民セミナー
 2008年東京内科医会
市民セミナー
 2007年東京内科医会
市民セミナー表紙
                                            
   パネルディスカッション「市民の疑問に答える」 
            お薬情報書のみかた
                                               東京内科医会理事
                         谷田貝 茂雄
   はじめに
 図1 に最近の読売新聞「わたしの医見」をお示しします.ここに「のどが腫れ耳鼻咽喉科に行った.そこで医師は抗生物質を5 日間投与し様子をみましょうと言った.調剤薬局でも特に副作用の説明はなかった.5 日目急に下腹部が痛み出し,下痢の後で下血が始まり2 日間苦しんだ.家庭用の医学書を調べると抗生物質の副作用と同じ症状だった.医師と薬局に経過を話すと『そういう事もある』.それではなぜ説明してくれなかったのか納得ができない」と掲載されています.
   抗生物質の内服が本当に必要な時
 図2 に日本呼吸器学会の呼吸器感染症に関するガイドライン「抗菌薬(抗生物質)の適応となる患者様の症状,所見」をお示しします.当然,この患者様も「のどが腫れて耳鼻科へ行った」とのことで耳鼻科医はガイドライン通り(3)の扁桃腫大と膿栓,白苔付着で抗生物質を処方したと考えます.抗生物質を内服することで扁桃炎から早く回復すること,重症化して入院など回避すること,溶連菌の感染から急性糸球体腎炎を起こさないこと等「抗生物質を内服した時にこうむる利益が,まれにおきる副作用をはるかに上回る」と判断して処方したと推察されます.
   抗生物質の副作用
 抗生物質の副作用として図3 にお示しするように,しばしば認める「食欲不振」「下痢」「発疹」などから,本当に極めてまれな「呼吸困難」「けいれん」「発熱」「咳」「倦怠感」などがあります.これらの副作用は,ごくごくまれではありますが起こる可能性は否定できません.「ゼロではない」ということです.

   医師と調剤薬局の薬剤師
 そこで処方する医師と薬剤師は,内服した時に「体にいい影響がある説明」と「まれに起きる副作用の説明」を行うことになります.口頭で説明しても覚えきれない内容や特に注意することが「薬剤情報提供書」という,いわゆる「お薬情報書」に記載されています.「お薬情報書」を薬剤師から手渡される時に調剤薬局では「既往歴」「薬剤内服歴」「アレルギーの有無」などについて聞き取りがあります.その後処方箋の薬剤の内服方法が説明され手渡されるのですが「内服した時に,どのような効果が期待できるか」には十分な説明の時間がさけません.また「内服した時に自分にどんな副作用が出るか」は実際に内服してみないとわかりません.そこで「副作用等の説明が多く調剤薬局で効果や予防効果について説明が少ない理由」について調剤薬局の薬剤師のアンケートを行いました.
   調剤薬局で内服薬の効果や予防効果について説明少ない理由
 その結果,図4にお示しする様に,第一位(33%)は「医師から説明があったのに再度薬剤師からの説明で患者様は混乱するかもしれない」でした.確かに改めて薬剤師から説明があっても今医師から聞いたことについて何か行き違いや受け取り違いの可能性もでてくるかもしれません.かえって患者様の不安が増える可能性があります.第二位(22%)は「時間が少ない」でした.確かに調剤薬局で数名の患者様がお待ちになっている時に初めて来た患者様で「既往歴」「薬剤内服歴」「アレルギーの有無」の聞き取りを行って「はじめて内服する薬の説明」とすすみ,あらためて薬剤の効果について説明は時間がとれないと考えます.また調剤薬局は個人個人で調剤指導が行われるわけではなく多くはオープンカウンターで他の方のお待ちになっている前での説明は決められた時間内になると思います.第三位(15%)は「病名がわからない」でした.たとえば抗生物質が処方されても「扁桃炎」なのか「急性大腸炎」なのか薬剤師は処方箋一枚からはわかりません.その効果や予防効果について説明はできません.第4 位(14%)は「保険点数に関係ないから」でした.調剤薬局の調剤報酬点数表には効果や予防効果について説明に対しての算定はありません.以上のように調剤薬局の説明には限界があります.よって「お薬情報書」の存在価値が出てくるわけです.
   お薬情報書(薬剤情報提供書)についての検討結果
 さきほどお話ししたように「お薬情報書」には,しばしば認める「食欲不振」「下痢」「発疹」などから,本当に極めてまれな「呼吸困難」「けいれん」「発熱」「咳」「倦怠感」など記載されており「なにを信じていいのかわからない」のが現実と思います.
 我々は,医師12名と製薬会社の学術部員12名で検討を行い図5 のような問題点を指摘いたしました.問題点の第一位(21%)2 項目は「適切でない表現がある」と「もっと書かれるべき大事なことが書かれていない」でした.たとえば「気になる症状が出たら医師,薬剤師に連絡すること」などとあるが「気になる症状とは何か」など具体的ではない表現が目立ちました.実際に具体的な症状を書かないと患者様は副作用を申し出るのは困難ですが,その症状は多様であり個々の病気で症状が異なるので「具体的な表現」についての記載は難しいと思います.また「もっと書かれるべき大事なことが書かれていない」についても同じ薬剤でも効果が様々で処方箋からだけでは「病名」が薬剤師からわからないので記載は困難と考えます.たとえば高血圧症で内服する「β遮断薬」には「高血圧症」のほかに「不整脈」や「狭心症」の適応があります.よって調剤薬局の患者様への聞き取りから病名を正確に聞き出せないと情報提供も正確にできないのが現実です.第二位(12%)は「内服しなかった時に起こることが書かれていない」でした.「内服しないと,こんなことが起こります」ということも記載が必要ですが第一位と同じ理由です.内服しなかった時の症状は多様であり個々の病気で症状が異なるので「具体的な表現」についての記載は難しいと思います.第三位(11%)は「本来口頭で伝えるべき内容が書かれている」でした.これは「妊娠の有無」「授乳中か」など一般的に口頭で聞き取るべきことに情報提供書のスペースをとられているということです.その他「どの薬剤にもある副作用が書かれている」「患者様が不安になる内容が書かれている」などが問題点として出ました.薬剤情報提供書検討の結果をご覧ください(図6).
   たとえば糖尿病の内服薬について
 図7 にお示しするように,たとえば糖尿病の内服薬でも大まかに4 分類の薬剤に分かれます.これらは「低血糖」という「冷や汗」「ふるえ」「意識朦朧」のような可能性のある薬剤から,「低血糖」を極めて起こしにくい薬剤まであります.そしてそれらの薬剤は患者様の病状や体質によって複雑に組み合わされて処方されるため画一的に起こりうる副作用や頻度を記載することはできません.
   ではどうすればよいか
 ではどうすればよいかですが,薬剤には必ず図8 のような「くすりのしおり」というものがあります.

 その薬剤の特徴,効果,効能も記載されています.飲み忘れた時,誤って飲み過ぎた時の対応も書かれています.ぜひとも長く飲む薬であれば一読することを強くお勧めします.図9 に読売新聞の切り抜き「かかりつけ金融機関を持ちましょう」という記載があります.許せない「振り込め詐欺」が後を絶ちません.「かかりつけ金融機関」は大切です.同じように「かかりつけ薬局」を持ち本日お越しの皆様の病気や過去の薬剤使用について十分に知っていてくれる信頼できる薬剤師を持つことが大切です.医師,薬剤師,患者様が信頼のトライアングルとなることが「安心して薬を飲める」ことなのです.「お薬情報書」の副作用や恐い記載にばかり目がいき期待できる肝心の「効果」についての理解が不十分なことが多いのです.信頼できる「かかりつけ医師」と「かかりつけ薬局」が必要なのです.それこそが皆様の健康を維持することにつながります.ご清聴誠にありがとうございました.
はじめにもどる