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     第26巻3号・2011年5月
   便利さを追求してきた近代の終わり
                        東京内科医会 理事 成 子  浩

  3月11日の東北関東大震災により、幅広い範囲で甚大な被害がもたらされました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた皆様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 自然災害により私たちの築いてきた生活そのものが壊滅するさまを見て、ヒトがこの世の中で生きて行くことの困難さを改めて感じさせられました。大地震と津波の破壊力の前に、人間の営みはあまりにも無力でありました。過去の経験に学んで未来の災害を未然に防ぐことはとても難しく、万全と思われていた数々の施策は実際には不十分でありました。私たちの知恵、知識は、思いのほか浅かったと言わざるを得ません。
 東京では地震による被害そのものは大きくありませんでしたが、交通機関がマヒしたため帰宅難民があふれました。道路は極度に渋滞し、徒歩での帰宅を余儀なくされたり、職場や避難所に宿泊せざるを得なくなったりしましたが、被災地の皆様のご苦労に比べれば、たいした苦労とはいえないのかもしれません。
 しかし原子力発電所の被災は、東京の生活に大きな打撃を与えました。放射性物質の飛散により食料、飲料水の安全性が今後保たれなくなる可能性が出てきました。また電力供給不足による計画停電のため、生活全般にわたり支障が出ております。今のところ解決の目処は立っておらず、今後どのように推移するのか予断を許さない状況です。
 さて、日本は当分の間エネルギーを節約しなければなりません。あらゆる産業、家庭で電力の消費を減らす努力をする必要があり、医療もおそらく例外ではありえません。少ない電力で医療を行う、あるいはときどき停電が起きる中で医療を行うとは、いったいどういうことでしょうか。
 節電のために照明を暗くするぐらいなら、難しくありません。しかし来るべき暑い夏に冷房を使えなくなったら、診察室も待合室もたいへん不快な環境になってしまいます。また停電となると、電子カルテもレセコンも使えなくなりますので、通常の診療所では診療がたいへん困難になってしまいます。また大病院でも手術の予定を立てにくいなどの影響がすでに出ております。
 原発災害が明らかにしたように、近代が追求してきた「便利」「快適」「効率」はハイリターンだがハイリスクでもありました。国民の生命、安全、健康を脅かすものを減らそうとするならば、多少不便でもエネルギー消費量の少ない生活にシフトせざるを得ないでしょう。医療もそうです。たとえば暑い夏に窓を開けると虫が入ってくるかもしれません。しかし停電より節電のほうがマシです。すでに近代化を終えた日本は、さらなる国民の幸福に向けて、これ以上の便利さを追い求める気持ちをこらえて、すこし時計の針を戻したところからもう一度やり直すのがよろしいのではないかと思います。

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