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     第28巻1号 ・2012年8月
   医師の倫理と患者の倫理
                          東京内科医会 理事  鳥居  明


  医療の倫理が問われてから久しい。辞書によると、倫理とは「人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの」である。
 古くより医師には「ヒポクラテスの誓い」で表されるような従来型の医の倫理が存在していた。しかし、医学の進歩と時代の移り変わりに伴い、従来型の医の倫理が時代に適さなくなっていた。1960年代にアメリカで起きた人権運動の一つとして患者の人権運動が高まり、医師や医療関係者の独善的態度や医療行為を厳しく批判するようになった。新しい生命倫理学はこのような状況の中で、宗教学、哲学、法学、社会学、経済学など多方面の研究者が学際的に研究を始め、1970年ごろに学問として体系立てられた。日本でも「説明と同意」「脳死と臓器移植」「不妊治療」「臨床治験」などの問題がマスコミをにぎわしている。その中で、今まで軽視されていた患者の人権が保護されるようになったのも確かである。振り返ってみると、日常の診療において、我々医師は倫理のことを考えることは少ない。しかし反射的に、その時できうるかぎり、患者のためになると思われる診療を行っているはずである。
 一方、患者の倫理も考えてみたい。混んでいる外来において、「わたしは時間がないので、何時までに病院を出たい」との要望がある。もっともな要望のようであるが、その要望を叶えるためには診察順番を変えなければならない。タクシー乗り場で同じことを主張したら、割り込みである。また、診療が終わってから受付で「手持ちがないので、診療費が払えない」と言い出す患者がいる。翌日持って来てくれることを信じてそのまま帰ってもらうが、1週間たっても、2週間たっても払いに来ない。飲食店であれば、無銭飲食である。
 医療における医師の倫理を正すことは大切であり、それにより患者の人権が守られる。しかし、医療は患者と医師とで作り上げていくものである。「順番を守る」「診療費を払う」などは「人として守り行うべき道」ではないだろうか。患者の倫理も正されなければ、医療は崩壊の道を歩むことにならないかと危惧する昨今である。 





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