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     第33巻1号
   AIの時代と医師の役割

東京内科医会 理事 高橋俊雅


  20世紀末から急速に進展した情報革命は、私たちの生活や世界観を大幅に変えてきた。特に人工知能(AI)は20年前には想像もできなかったことを実現しつつある。身近なところでは、PCやスマートフォンの音声認識・入力・検索システムが便利に利用でき、家庭のロボット掃除機や、自動車ではハンドルに触ることなく目的地まで到着するという完全自動運転がもう数年で実用化されるという。医療分野でもAIの開発は目覚ましく、米EnliticはCTやMRI、顕微鏡写真、X線写真などの画像をディープラーニング(深層学習)させ、解析結果と遺伝子情報を組み合わせて悪性腫瘍を的確に発見できるシステムを開発した。米IBMの「ワトソン」は、200万ページの医学雑誌や論文・150万件の臨床試験や患者記録・60万件の医療報告書などを学習し、それぞれの病状に適切な診断・治療方針を示すという。実際、肺がん治療の決定をサポートする際には90%の正確さを発揮し、どの医師も診断できなかった特殊な白血病をわずか10分で正確に診断したという。一方、オックスフォード大MA Osborne博士は、目覚ましい進歩を続けるAIの未来に警鐘を鳴らす論文「The future ofemployment:how suscepitatable are jobs to computerization?」を発表し、「10年後になくなる仕事」として翻訳されて話題となった。それによると医療分野でも少なからず「なくなる仕事」が推測されている。日経新聞と英ファイナンシャルタイムズが共同開発したソフトによると、医師の仕事がAIに取って代わられる確率は29.2%という。では、医師にはできてAIにできないことはなんだろう? それは「人と人が関わる」という関係性ではないだろうか。「医師は患者に信頼され、人格的に尊敬される存在」であり、それは治療に大きな影響を及ぼす。これを説明する概念に、1978年モンタナ大学のワトキンスが提唱した「治療的自己Therapeutic self」がある。彼は大学病院で医学的知識や経験・技術面では同等を思われる2人の研修医がローテーションで担当した病棟で、トラブルや患者の治療経過が違うことを観察した。この2人は全く異なる性格を持ち、粗野で傲慢な研修医が担当した時期は病棟が荒れて病状が悪化する患者が増加し、とても評判の良い研修医が担当すると病棟は平穏となって痛み止めを要求する患者も減ったという。そこから「治療者は、医学的知識・技術・経験とのほかに「治療的自己」が存在し、患者の回復を促すために重要な役割を果たす」ことを発見した。「治療的自己」は平易に言えば「態度」だと受け取れる。しかしこの「態度」こそ、その人の人格が現れるものである。病気に対する物理的な治療だけでなく、病めるものに対する共鳴・共感を通じた「態度」は、信頼され尊敬される治療者となるために重要である。2015年1月のNYタイムズ誌に掲載された研究記事でも、治療がうまくいかない原因の70%が医師と患者のコミュケーションに問題があり、医師のコミュニケーションスキルが原因となる場合が多いことが取り上げられている。末期の患者様の家族から亡くなった後に感謝の言葉を頂いたり、日常診療でも「先生に“大丈夫”といわれて気持ちも症状も楽になりました」といったやりとりは、この拙文をお読みの先生方が既に多く経験されていることと思う。
 「人」は理性と感情を持ち、学習と経験から人格が形成され、そして互いに影響される存在である。人工知能が人間のような自我や意思をもち、相手の感情を理解して共感し、それを受け入れて表現するようなことができるところまでの道のりは、遥かに遠い。医療が「人と人とが関わる」仕事である限り、AIには決して取って代わることのできないことがある。それは知識や技術だけではない「経験」や「人としてのあり方」であり、まさに「人間力」が問われる時代である。




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