第28巻−3号
- 知識と経験の世代間継承
知識と経験の世代間継承
昨年の暮れに行われた政権交代によって、少し社会のムードが変わってきたように思われる。力強い日本の国造りを目指すとして、「失われた20年」を取り戻すために、金融政策、財政政策、成長戦略の「三本の矢」で経済回復を目指すとしている。医療の面においては、「診療所の機能の強化や充実」、「地域産業保健センターの強化、救急医療体制の強化」などを重点項目としているようである。増大する医療費の問題については、高額医療費の限度額を引き下げることや、医療と介護の総合合算制度を創設する案などがあげられている。安心して医療サービスを受けられるように体制を整えるともうたっていて、さまざまな対策が出てくると思われるが、現場の医療を預かる私どもとしても、その動向に注意し、東京内科医会を通じて声を上げ、さまざまな提案をしなければならないと思っている。
最近の社会情勢として、経済の停滞に伴って、財政危機、年金問題など、いろいろな問題が噴出してきて、将来を担うべき若者にも、漠然とした不安感を感じている人が多いようだ。若者を対象とした調査でも「現在の仕事に対して無気力を感じる」「自分の将来に不安を感じる」などと答えた人が大多数を占めているという結果が出ている。
豊かな時代に育って、多様な価値観をもちながらも、社会の矛盾が噴出した時代に生きている若者の苦悩かもしれない。社会全体としても、2011年の東日本大震災を経験し、これまでになかったような視点で、自分や社会を見つめなおす人々が増えている。 私の所属している渋谷区医師会では、近隣病院と連携して、平成16年に始まった臨床研修医制度の地域医療カリキュラムを受けもっている。「かかりつけ医」機能の研修の場として、2年目の研修医を1ヵ月、各診療所でお預かりすることになっている。このカリキュラムを通じて、若き研修医の先生方とお話しする機会が数多くある。どの先生も優秀で、礼儀正しく、昔に比べて目的意識が高い若者が多いように感じられる。積極的に新しいことを吸収していこうとする姿勢は、接している私たちも見ていて気持ちよく、刺激を受けることも多い。
世界に先駆け超高齢化社会を迎えつつある日本は、労働力人口の減少、人口構造の変化に伴う生活や自治のあり方の模索、社会保障制度の再構築など、高齢化社会の課題は多岐にわたり尽きることがないように思われる。
これからは、われわれ世代のなすべきことは、医療、介護、福祉の面で、若い先生方への知識と経験の世代間継承であり、また、熱意のある若き医師たちが、その力を十分発揮できるよう、環境を整えていくことも使命だと思っている。
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