第22巻−3号
- 捏造事件に思う
捏造事件に思う
テレビのバラエティ番組で、納豆のダイエット効果に関するデータ捏造が発覚し、世間や雑誌をにぎわしている。その背景には、熾烈な視聴率競争かおり「高視聴率さえとれればよい」「放送さえしてしまえば、あとはどうでもいい」という無責任な実態があった。
さらに、実験データの捏造は納豆だけでなく、みそ汁、わさび、レモン、うに、寒天、豚肉等でも指摘されている。番組で取り上げられた食品がマーケットから売り切れるということは、視聴者は番組を信じ切っているということである。したがって、バラエティ番組だから、楽しければいい、高視聴率であればいいという考えで捏造情報を流布したメディアの責任は重い。
私もバラエティ番組にしばしば出演していたのだが、ある時大物女優から自分が極端に塩分と脂肪分をとりすぎていることに対して、なにを食べたらよいのかコメントを求められた。私は、「栄養指導のため入院したほうがいいです。1週間くらい管理栄養士の献立による食事で栄養指導を受けたほうがよろしいです」と申し上げた。すると、彼女に「病気じゃないのになんで入院するの!」と呆れられ、以降番組出演の依頼はなくなってしまった。
世間には、人生100年などといった健康志向、そして健康への不安をあおる「情報」が溢れている。とりわけ食品関連の情報が目立つ。それさえあれば健康に関するすべての問題が解消されるかのような特定の食品や飲料の効果が強調され、一時的なはやり廃りが繰り返されている。特に「ダイエット」をうたう食品には皆飛びついてしまう。しかし、体重を減らすには、摂取カロリーを減らし、体を動かしてカロリーを消費することが基本である。我々は、自分に都合のいい情報だけをついつい取り入れがちである。たとえば、2002年に中国製の「ダイエット食品」が原因と思われる劇症肝炎などの被害が全国で多発し死者も出る騒ぎとなったのは記憶に新しい。
「薬」というと敬遠し、「健康食品」だと取り入れてしまうのはおかしな話だ。私が薬を処方するときの説明不足なのだろうか、患者さんは調剤薬局から発行される「薬剤情報提供書」に記載されている副作用や注意にばかり目がいき、本来薬剤を内服することによる大きな利益に気持ちが向かないのが現実である。
食品の正しい知識を得るのに公的機関のホームページを利用するのも一つの方法である。私は、患者さんに健康食品について意見を求められたときには国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報(http://hfnet.nih.go.jp/)や文部科学省の科学技術振興調整費研究「食品成分データーベース」(http://food.tokyo.jst.go.jp/)などをプリントして説明に用いている。
健康の基本として、生活習慣の改善と必要あれば薬剤の内服が大切である。一般人の健康に対する誤解を解き、行われるべき標準的医療に対する啓蒙啓発が我々実地医家の仕事であると私はあらためて痛感している。
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