会誌:第26巻−3号[目次]

巻頭言
便利さを追求してきた近代の終わり東京内科医会 理事 成子 浩
特別寄稿

東京内科医会・発足当時をふりかえって

川邊 兼美
東京内科医会 学術講演会
上部消化管傷害におけるH.pylori感染と抗血小板療法 ―細径経鼻内視鏡を用いた検討から―河合 隆
      
東京内科医会 臨床研究会
2型糖尿病 ―最近の考え方と新規治療薬DPP-4阻害薬の早期効果―江藤 一弘
医療連携室紹介
帝京大学医学部附属病院における医療連携 ―患者そして家族と共にあゆむ医療―佐野 圭二
東京内科医会 市民セミナー2010
東京内科医会市民セミナー2010 レポート清水 恵一郎
がんを予防する生活習慣とがん検診森山 紀之
大腸がんの早期発見と対処 ―知っておきたいがんの知識―神保 勝一
胃がん武石 昌則
肝がん石川 徹
肺がん若井 安理
糖尿病予防推進医(アドバンス編)
本音で語る糖尿病薬物療法(経口薬編)宮川 高一
特集 電子カルテ・レセプトオンライン
医療へのIT活用について大橋 克洋
State of the artと開業医の医療IT導入谷田貝 茂雄
ひろば

先輩医師をたずねて(6)野間八重子先生(目黒区医師会)

東京内科医会とわたし吉田 幸子,戸矢 和男,瀬底 正彦
俳 句鈴木 良戈,山下 公三
理事会報告
会員の動向
投稿規定
編集後記野口 晟

便利さを追求してきた近代の終わり

東京内科医会 理事 成子 浩

3月11日の東北関東大震災により、幅広い範囲で甚大な被害がもたらされました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた皆様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

自然災害により私たちの築いてきた生活そのものが壊滅するさまを見て、ヒトがこの世の中で生きて行くことの困難さを改めて感じさせられました。大地震と津波の破壊力の前に、人間の営みはあまりにも無力でありました。過去の経験に学んで未来の災害を未然に防ぐことはとても難しく、万全と思われていた数々の施策は実際には不十分でありました。私たちの知恵、知識は、思いのほか浅かったと言わざるを得ません。

東京では地震による被害そのものは大きくありませんでしたが、交通機関がマヒしたため帰宅難民があふれました。道路は極度に渋滞し、徒歩での帰宅を余儀なくされたり、職場や避難所に宿泊せざるを得なくなったりしましたが、被災地の皆様のご苦労に比べれば、たいした苦労とはいえないのかもしれません。

しかし原子力発電所の被災は、東京の生活に大きな打撃を与えました。放射性物質の飛散により食料、飲料水の安全性が今後保たれなくなる可能性が出てきました。また電力供給不足による計画停電のため、生活全般にわたり支障が出ております。今のところ解決の目処は立っておらず、今後どのように推移するのか予断を許さない状況です。

さて、日本は当分の間エネルギーを節約しなければなりません。あらゆる産業、家庭で電力の消費を減らす努力をする必要があり、医療もおそらく例外ではありえません。少ない電力で医療を行う、あるいはときどき停電が起きる中で医療を行うとは、いったいどういうことでしょうか。

節電のために照明を暗くするぐらいなら、難しくありません。しかし来るべき暑い夏に冷房を使えなくなったら、診察室も待合室もたいへん不快な環境になってしまいます。また停電となると、電子カルテもレセコンも使えなくなりますので、通常の診療所では診療がたいへん困難になってしまいます。また大病院でも手術の予定を立てにくいなどの影響がすでに出ております。

原発災害が明らかにしたように、近代が追求してきた「便利」「快適」「効率」はハイリターンだがハイリスクでもありました。国民の生命、安全、健康を脅かすものを減らそうとするならば、多少不便でもエネルギー消費量の少ない生活にシフトせざるを得ないでしょう。医療もそうです。たとえば暑い夏に窓を開けると虫が入ってくるかもしれません。しかし停電より節電のほうがマシです。すでに近代化を終えた日本は、さらなる国民の幸福に向けて、これ以上の便利さを追い求める気持ちをこらえて、すこし時計の針を戻したところからもう一度やり直すのがよろしいのではないかと思います。