会誌:第33巻−3号・34巻-1号 合併号[目次]

平成29年度 川上記念賞
平成30年度 “川上記念賞” 受賞候補者推薦のお願い
巻頭言
温故知新東京内科医会 理事 田中 佐和子215
診療報酬改定

2018年度診療報酬・介護報酬同時改定について清水 惠一郎

216
特別寄稿

帯状疱疹・単純疱疹の治療戦略白濱茂穂

219

患者満足度を高める皮脂欠乏症の治療戦略常深 祐一郎

222
臨床報告

後発医薬品レボフロキサシンの副成分でアナフィラキシー反応を呈したと思われる一症例武田 光史,他

227
東京内科医会 第31回医学会
[教育講演]

内分泌疾患の診断と治療の基礎 ―甲状腺疾患の診療上留意すべきポイント―小野瀬 裕之

231
[一般演題]

高齢者糖尿病の血糖管理に関する検討宇都宮 保典,他

237

呼気中一酸化窒素濃度測定(FeNO)に影響を与える因子の検討:高血圧例におけるFeNOと動脈硬化症との関連について柳澤 孝嘉

242

舌下免疫療法(シダトレン)の3年間継続例と中止例の比較検討田中 佐和子

248
[東京内科医会 第31回医学会 抄録]251
東京内科医会 第208回臨床研究会

RS3PE症候群村岡 成,他

256

わが国における不眠症の現状と治療について ―特に高齢者について―高井 雄二郎

264
医療連携室紹介

東邦大学医療センター大森病院が取り組む医療連携並木 みゆき,他

270
特集 市民セミナー2017 糖尿病のリスクマネージメント

東京内科医会市民セミナー2017清水惠一郎

272

2型糖尿病の薬物治療 ―食事療法との連関について―森 保道

275

おくすりとうまく付き合うために知っておきたいこと ―糖尿病薬を中心に―清水淳一

288

糖尿病と狭心症・心筋梗塞安田 洋

300

糖尿病と脂質異常症谷田貝 茂雄

309
市民セミナー 開催一覧317
ひろば

先輩医師をたずねて(26)指田 和明先生(北多摩医師会)

320

俳句鈴木 良戈

321
理事会議事録322
会員の動向340
投稿規定343
編集後記石川 徹344

温故知新

東京内科医会 理事 田中佐和子

法律、医学の歴史と転換期の偶然について、気づいたことがあったので書き留めておきたい。物語は大抵ギリシャ時代から始まる。法律の祖はアリストテレスが「法の正義」について定義した。善人でも悪人でも物を盗んだら窃盗罪である。どんな身分の人でも犯した行為の害悪の差異のみを顧慮するのが法である。それが法の正義なのである。一方、医学の祖は言わずと知れたヒポクラテスである。アリストテレスよりさらに100年ぐらい前である。ヒポクラテスは病気を「迷信」や「呪い」から分離し、客観的な観察と論理から科学へと導いた。有名なヒポクラテスの言葉の一つ「vita brevis ars longa.」は、「人生は短く、芸術は永遠である」と誤訳されているが、本当は「人生は短いが術は長い」であり、これは現代の医療にも通用する名言である。ギリシャ時代の後は1000年以上も法律は宗教と一体となり、1600年頃ホッブズによって再び自然法思考に戻るまで続く。ホッブズはあの有名な「社会契約論」など、社会の教科書にでてきたロックやルソーに影響を与えた人物である。ホッブズは、自然状態における人々が自然法に命じられて社会契約を結び国家を設立すると説いた。このころのイギリスは、王政復古やピューリタン革命など不安定な時代で、彼の国家に対する期待と不安は、400年後の第二次世界大戦を予想していたかのように私は感じる。宗教が法律を支配していたことを理解できれば、徳川幕府が西洋の宗教は受け入れないため、フランスとスペインが日本貿易から撤退したのが理解しやすいと思う。ただ、イギリスは交易に残った。その外交仲介をしていた三浦按針ことウイリアム・スミスも、先ほどのホッブズと同じ時代に生きているのである。その三浦按針と同い年なのはシェイクスピアであり、私はその400年後に生まれている。日本が鎖国したころ、唯一西洋の国オランダとだけ貿易、オランダ医学を勉強した華岡青洲が1804年に全身麻酔に成功、その40年以上後にアメリカでエーテルによる全身麻酔が成功したのであるが、イギリスの医学雑誌ランセットの初版が1823年、NEJMは1812年である。産業革命、功利主義、法実証主義、経済が膨らみ世界大戦へと突入する。しかし第二次世界大戦後の反省も踏まえ、新しい法実証主義、倫理や道徳のあり方、リベラリズム、環境問題、グローバルジャスティスと個人の幸福の追求や権利ばかりを主張する時代ではなくなってきた。そして法の正義を振りかざして医療訴訟が増えたが、今や医療現場は医師だけの裁量では判断できない、安楽死、尊厳死、生殖技術、クローン技術、ヒトES細胞、iPS細胞と法整備が急がれる問題が山積みである。かと思えば学校にいる子供の命を守ることさえできず、飛行機にはペットボトルの水さえもって乗れない矛盾を指摘した親もいる。難しい問題を抱えながら歩いているので、足元の石さえよけられない状況だ。自分の祖父母や親たちは、富国強兵や高度成長期を生きてきた世代である。世界の大イベントには負のイメージがあるかもしれないが、小さいながらも無茶苦茶頑張って参加してきた日本を今になって省みると、もしかしたら日本の「鼠小僧」や「大岡裁き」は案外いい線いっていたのかもしれない、などと思ったりもする。