東京内科医会市民セミナー2008

日 時
平成20年10月5日(日)
場 所
新宿住友ビル47階 スカイルーム
テーマ
「メタボリックシンドロームと特定健診」
共 催
東京内科医会・興和創薬株式会社

東京内科医会市民セミナー2008が新宿で開催された。昨年9月有明での開催は交通機関の問題で参加者が少なかった事を受けて,本年は新宿での開催となった。テーマは「メタボリックシンドロームと特定健診」であった。

東京逓信病院内科部長 宮崎 滋先生から「肥満とメタボリックシンドローム」の特別講演があり,食事の摂りすぎと運動不足が肥満の誘因であり,便利な車社会が肥満をもたらしており改善のためには,さんさん運動(3キログラム体重減少,3センチメートルのウエスト周囲長減少)が有効であると述べられた。

順天堂医院栄養部 高橋徳江先生からは,栄養士の立場から「食事療法」の講演があり,食事の適量と計算法,病態別食事の基本,食事方法(ゆっくり良く噛む,箸を置く,一汁一菜)について実例をあげてわかりやすくご説明をいただいた。当会理事の須藤秀明先生からは,かかりつけ医の立場から「運動療法」の解説をいただき,運動療法の条件は,強度,時間,頻度,食後1時間が重要なポイントであると強調された。

「健診結果の読み方」をテーマとしたパネルディスカッションでは,血圧は吉田先生,糖・脂質代謝は谷田貝先生,肝機能は石川先生がそれぞれ専門的立場から要点をわかりやすく説明いただいた。また,おわりに役員総出の 「医療相談」が行われ,丁寧な説明のために時間を延長するブースも出て,大盛況でした。最終的に100名に上る参加者があり,アンケート結果でも極めて好評を博した市民セミナーでした。

最後に,会場の設定,広報活動等で市民セミナーを共催いただいた興和創薬株式会社,講演をいただいた諸先生,手弁当で参加いただいた当会先生方に感謝いたします。

東京内科医会副会長 清水恵一郎 記

東京内科医会市民セミナー2008 講演 運動療法 検診結果の読み方 医療相談会

特別講演

「肥満とメタボリックシンドローム」

宮綺滋
東京逓信病院 内科部長 宮綺滋

本日はお忙しいなか,東京内科医会市民セミナーにご参加下さいまして,大変ありがとうございます。

本日は肥満とメタボリックシンドロームについてお話させて頂きたいと思います。

ここ1,2年の間に「メタボ」という言葉があちこちで聞かれるようになりました。「メタボ」とはメタボリックシンドロームの略称ですが,「メタボ」というと最近は太った人,お腹の出た人という意味のように使われています。

しかし,本来の正しい意味でのメタボリックシンドロームを御存知の方は意外と少ないのではないかと思います。今日はメタボリックシンドロームとは何か,その危険性はどんなものかをお話させて頂きます。

1.肥満-その原因と健康への影響-

まず,肥満についてですが,食べて運動しなければ太り,よく活動し食事に気を付ければやせます。大変簡単な理屈ですが,理解はできても実行が難しいのが問題です。太るかやせるかは,食べた量(エネルギー)から運勤した量(エネルギー)を引き,(+)なら太り,(-)ならやせます。つまり,このバランスを(-)にすればよいわけです(図1)。

図1 図2 図3

BMT25以上(BMIとは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値)であれば肥満と判定されますが,日本人はこの50年間BMIが増えてきています。特に男性は全ての年代で,女性は中高年で増えています。

その結果どうなったかというと日本人の30%は心血管疾患と脳血管疾患という動脈硬化が原因の病気で亡くなっています(図2)。では,昔からそうだったかというと,第二次世界大戦前,死亡原因の上位は肺炎,結核などの感染病でしたが,戦後抗生物質の発展や経済の高度成長の結果,それが過食,運動不足となり,死亡原因が変わってきました。

つまり,非衛生的で,低栄養,高活動性の時代から過栄養,低活動性の時代へとライフスタイルが変わったために,肥満の人が増え動脈便化,心臓病が増えたのです(図3)。

肥満になると動脈硬化以外にも,いろいろな病気になりやすいことがわかっています。しかし,肥満といっても,お腹がでっぱり内臓脂肪がたまるタイプと,お尻が大きく皮下脂肪がたまるタイプと2種類あります。内臓脂肪がたまると糖尿病,高血圧,脂質異常症,痛風,脂肪肝や心筋梗塞、脳梗塞が起こりやすくなり,皮下脂肪がたまると関節病,睡眠時無呼吸症候群,月経異常などが起こりやすくなります(図4)。 メタボリックシンドロームとは,この内臓脂肪がたまった肥満とほぼ同じものと考えてよいと思います。

図4

2.内臓脂肪とは? 病気との関係

ではなぜ内臓脂肪が増えると,このような病気が起こりやすいのでしょうか。食べすぎて使われなかった脂肪は,脂肪細胞に貯えられ,食べ物がない時のためにストックします。これまで脂肪細胞は,余ったエネルギーを貯える倉庫のような細胞と考えられていました。ところが,この10数年前から脂肪細胞は身体の調節因子である多くの物質を作り出していることがわかりました(図5)。脂肪細胞が脂肪を貯えこみ,このような物質が過剰に作られると かえって身体に対し悪影響が出ることがわかりました。

図5

特に内臓脂肪かたよると,血糖や血圧を上げ,脂質に異常を来たす物質が増えるだけでなく,直接動脈硬化を起こす物質も作り出します。その結果,心臓病(心筋梗塞),脳卒中 (脳梗塞)を起こしやすくなります(図6)。

図6

逆に,体重を減らしてやせることによって,脂肪細胞が小さくなります。脂肪細胞の働きがもとに戻り正常化すると,血糖や血圧を下がり,脂質に異常を来たす動脈硬化を引き起す物質が減り,糖尿病,高血圧,脂質異常症がよくなり,動脈硬化も起こりづらくなります。

3.メタボリックシンドロームの予防,治療

食べすぎ,運動不足でなったメタボリックシンドロームでは,食事に気を付け,運動を心がければ,内臓脂肪が減り,様々な病気もよくなり,心筋梗塞,脳梗塞を起こさないことが十分期待できるのです。 では,どのようなことを心がければよいのでしょうか。メタボリックシンドロームの治療法は「1に運動,2に食事,しっかり禁煙,最後に薬」です。現在の体重を5%減らすことで十分効果が出ます(図7)。まず,生活習慣をよくし,それでも改善しない血糖,血圧,脂質異常があれば薬を服用します。薬で治すものではありません。

図7

内臓脂肪のたまりやすい生活習慣があれば改めましょう。摂取エネルギーを減らすためには,脂質,糖質を食べすぎないようにします。しかし,蛋白質,ビタミン,ミネラルは過不足なく食べる必要があります。

夜食,間食はやめるようにします。お腹一杯ではなく腹八分目にしましょう。食事も早食いをせず,いつまでもダラダラ食べないことも重要です(図8)。

図8 図9

運動では消費エネルギーを日頃の活動で増やしましょう(図9)。スポーツだけが運動ではありません。筋肉トレーニングは基礎代謝を減らさないために重要です。運動でインスリンが効きやすくなり,血糖,脂質がよくなります。そして,身体を動かすことは大変爽快です。事故が起きないよう,徐々に強度を上げ,時間を延ばしていくのが大事です。

食事,運動に気を付けて体重が減ると,内臓脂肪は皮下脂肪より速いスピードで減ることがわかっています。

メタボ退治には毎日の食事,運動に気を付け,少しずつ良くなるよう心がけることが重要です。早速今日から始めて下さい

講演

「メタボリックシンドロームを予防・改善する食事」

高橋徳江
順天堂大学医学部附属順天堂医院 栄養部 高橋徳江

はじめに

平成20年度より,メタボリックシンドロームを主眼とした特定健診,特定保健指導が始まった。メタボリックシンドロームとは,内臓脂肪のたまり過ぎが原因で,糖尿病,高血圧,脂質異常症という複数の病気が重なり動脈硬化が進行する状態のことである。ほとんど自覚症状がなく,ある日突然,心筋梗塞や脳梗塞におそわれ,はじめてことの重大さに気づく場合が多い。このメタボリックシンドロームのリスクを絶つためには,まず過食による肥満を解消するのが一番であり,食生活の見直しは不可欠である。

食事の適量と食品の選び方

<1.適正エネルギー量>

肥満がある場合はまず現体重の5%減を目標に減量する。
エネルギーの求め方は次の通りである。
エネルギー摂取量=標準体重*×身体活動量**
*標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
**身体活動量(kcal/kg標準体重)
25~30 軽労作(デスクワークが主な人,主婦など)
30~35 普通の労作(立ち仕事が多い職業)
35~  重い労作(力仕事が多い職業)
特にウエスト周囲径が男性≧85cm, 女性≧90cmの内臓脂肪型肥満はメタボリックシンドロームの第一リスクファクターとされているので,ここにも注目する必要がある。

内臓脂肪を減少させ,ウエスト周囲径を細くするためには食事療法が効果的であり,体重測定と併せて定期的にウエスト周囲径の測定を行い,その成果を実感することが食事療法継続の原動力となる。

<2.炭水化物>

総エネルギーの55~60%を炭水化物で摂るのが理想であり,そのためにも毎食主食をしっかり,1日のエネルギー量の約半分をここで摂るようにする。

簡単な目安は,男性軽く2杯,女性軽く1杯半,高齢者軽く1杯である。“ダイエット=主食を減らすこと”と考える人が多いが,主食を減らせば,脂肪の多いおかずをたくさん食べたり,間食で菓子類を食べる頻度が増えてしまう。毎食主食を適量摂ることが大切である。果物の1日の適量は,りんごや梨など大きな物は1/2個,バナナや柿など中位の物は1個,みかんやキウイフルーツなど小さな物は2個が目安である。

菓子は少量でもエネルギーが高く,血糖や中性脂肪を上げる原因になるため1週間に1~2回,1回に和菓子1個程度の量にとどめるようにする。菓子や果物は食べるタイミングも大切で間食や夕食後に食べる習慣をあらため,朝食または昼食のデザートとして食べるようにする。

<3.タンパク質>

タンパク質は総エネルギーの15~20%とし獣鳥肉類より,魚や大豆タンパク質を多く摂るようにする。1目の目安量は卵M玉1個,赤身肉手のひらサイズ1切,白身魚1切,(または青身魚1/2切),納豆ミニカップ1個(または絹ごし豆腐1/2丁),牛乳1カップである。

<4.脂質>
図1

脂質は総エネルギーの20~25%で摂り過ぎに注意が必要である。油は料理に使用されているとどの位使われているか見えないのも問題である。図1を参考に吸油量を把握し,油料理は1日1回とする。

脂質は獣鳥性脂肪を少なくし,魚類性脂肪を多く,植物油はリノール酸含有量が少なくオレイン酸含有量が多い種類を選ぶ。1日に青身魚1/2切とオリーブ油や菓種油大さじ1~2杯,または種実10~20gが理想的である。

<5.コレステロール>
図2

卵黄・レバー・魚卵・内臓ごと食べる魚介類・洋菓子に注意し,1日300 mg 以下に抑える。図2のコレステロールを多く含む食品例を参考に,コレステロール含有量の多い食品は1日1品とする。

<6.野菜>

野菜・海草・きのこ・こんにやく類はビタミンやミネラル,食物繊維が多く,身体の調子を整えてくれる。特に食物繊維は血糖の急激な上昇を抑制し,脂質異常症の改善,血圧の改善に効果的でメタボリックシンドロームの予防に有用である。

<7.アルコール>
図3

飲み過ぎは内臓脂肪を増やす原因の一つであり,節度ある適度な飲酒を心がける必要がある。適量は図3の通りで純アルコールで1日平均20gまでとし,休肝日を設ける

食べ方の工夫とコツ

1.食べる順番を意識する

食事のはじめに野菜・海草・きのこなどの低エネルギーで食物繊維の多い食品をたっぷり食べる。たっぷりとは”生の状態なら両手山盛りいっぱい”“温野菜なら片手いっぱい”。料理の品数では,“ほうれん草のおひたし”と大根の煮物”というように“毎食2品以上”を組みあわせる。

2.ゆっくりとよくかんで食べる

1食につき20~30分か理想的な食事時間である。食卓には必ず“箸置き”をセットし,一口食べたら箸を置いて「よくかむこと」を意識する。

3.寝る前には食べない

睡眠中はエネルギーが消費されずに蓄積され,太りやすくなる。食事は寝る2時間前までにすませるようにする。

4.腹八分目

お腹いっぱい食べないと気がすまない人は要注意。もう少し食べたいと思うところで我慢するのがコツ。

5.朝食を抜かない

1日の摂取エネルギーの合計が同じでも,朝食抜きの2食では3食きちんと食べるよりも太りやすくなる。前日の夜から昼食まで続く十数時間の絶食に対応して,エネルギーを蓄積しやすい体質になる。3食規則正しく食べることが大切である。

おわりに

長い年月の中でできあがった食生活を改善するのは容易なことではないが,これを機にライフスタイル改善の第一歩を…。食事療法は継続してこそ意義がある。無理せず,今できることを1~2つ決めて目標とし,実践することが大切である。

講演

「メタボリックシンドロームはこう治す-運動療法編-」

須藤秀明
東京内科医会 常任理事 須藤秀明

はじめに

2005年の4月に日本高血圧学会・糖尿病学会・動脈硬化学会・肥満学会など日本の代表的な8学会が合同で日本人の「メタボリックシンドローム」という内臓肥満を中心として動脈硬化の進展を予防する概念が提唱されました。メタボリックシンドロームを構成するそれぞれの疾病,すなわち内臓肥満の存在のもとに,空腹時血糖値の上昇,高中性脂肪血症または低HDLコレステロール血症と高血圧は,それ自体単独で動脈硬化の発症・進展を促進するリスクファクターであることはすでにわかっています。すでに単独で発症している疾病については,当然治療がなされるべきですが,「病気と診断するほどではない発症寸前の段階」いわゆる未病の段階であっても,それぞれが重なると動脈硬化の進展を促進することがわかってきました。

生活習慣は食事(栄養)・運動・睡眠(休息)の3本柱で支えられています(大人においては,これに喫煙とアルコールが加わります)。この3本の柱のどれが歪んでも,生活習慣は乱れてきます。現代社会の便利な生活の中では,過栄養と運動不足の影響による内臓肥満者が急増しています。実際に平成18年度の国民健康・栄養調査においても,運動習慣の比率は男女ともに30%程度であり,男性では30歳代で最も低く(17。5%),女性では20歳代が最も低い(17.1%),という結果でした。今回は,メタボリックシンドロームの運動療法編として,生活習慣の中の運動の部分を今一度見直していただける場になればと考えています。

メタボリックシンドロームにおける運動の効果

メタボリックシンドロームにおける運動の効能は,①食事療法との併用で体脂肪(内臓肥満)の減少を中心とした減量が可能,②運動の慢性効果として,末梢組織のインスリン感受性を改善し,高血糖・高インスリン血症を是正することにより,糖尿病の進展予防・合併症予防作用,③血中コレステロールや中性脂肪の低下など脂質代謝を改善し,脂質代謝改善・動脈硬化性病変の進展予防・高血圧の予防改善作用,④筋力の増強と基礎代謝亢進,骨のカルシウム損失の防止により,肥満になりにくい体格と骨粗しょう症の予防作用,⑤心肺機能が改善し,持久的な運動能力の向上作用,⑥免疫能が賦活化,⑦爽快感・ストレスの解消・脳神経系の活性化,などたくさんの効能があげられています(図1)しかしながら,やりすぎるといろいろなトラブルが生じ,欠点にもなりかねません。また「運動しなさい」といわれても,どのように運動すればよいかわからないという人も多いと思います。

図1

運動処方の考え方

我々が運動処方をする際には,以下のような点に注意し指導しています。①安全であること,②運動能力の向上が得られること,③薬剤の投与下における運動であること,④コンプライアンスが良好であること(継続性かおること),⑤リスクフデクター(危険因子)の改善が得られること,⑥精神面での充実が得られること,⑦QOLの改善が得られること等があげられますが,特に安全であることが重要であり,そのためには有疾患者においてはできるだけメディカルチェックを受けることが必要です。このようにして,運動許可が確認された人に対して,我々は,①運動の種類,②運動の強度,③運動継続時間,①運動の実施頻度,⑤運動の時間帯をそれぞれその人のライフスタイルにあった運動処方を作成していきます。

メタボリックシンドロームの予防に適した運動処方とは

前述した運動処方の作成に洽って,メタポリックシンドローム予防のための運動について考えてみますと,運動の種類はなるべく全身を使った有酸素的な運動であることはすでにご存知のことと思いますが,どのような有酸素運動であっても運動強度が強すぎると,有酸素域を超え,無酸素的なレベルに入ってしまいますので,個人個人にあった運動強度の設定が必要となります。

自分の適正な運動量ってどのくらいなんだろう?」と思われる方に簡単にできる「適正な運動量の設定」には以下のような方法があります。

①自覚的運動強度。軽い~ややきつい程度、運動中に感じる自分の気持ちで,軽い~ややきついなと思う程度の運動
②脈拍数を測る方法。多数の設定式がありますが,簡易法としては,設定脈拍数=135一年齢/2(最大酸素摂取量の50%に相当)運動直後の脈拍を測り,上記の計算式で求めた脈拍数を超えないようにする。

このような運動の程度で,運動時間は1回にウオーミングアップからクーリングダウンまで入れて1時間程度が適当でしょう。またこのような運動を週に3日~5日行うことが望ましいようですが,週に2日でも予防には効果があるといわれています。運動の時間帯については,早朝はできるだけ避けるか,十分な準備運動を行ってから運動するように心がけ,糖代謝を考えると食後1時間ごろが望ましいとされています。

健康づくりのための運動指針2006

しかしながら,「わかってはいるんだけど,なかなかねえ…、忙しくても時間も場所もないし,スポーツはあまり得意なほうじゃないし,この不景気の世の中,それどころじゃないよ!」と思われる方は多いのではないでしょうか? 運動やスポーツをするというように堅苦しく考えずに,身体活動量(身体を動かす量)を増やすというぐあいで考えてみられてはいかがでしょうか。

運動所要量・運動指針の策定検討会は,「健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド2006)」を発表しました。この指針は,生活習慣病の予防のために,運動も含めた身体活動全体を考慮し,現在の身体活動量や体力の評価と,それを踏まえた目標設定の方法,個人の身体特性及び状況に応じた運動内容の選択,それらを達成するための方法を具体的に示したものです。

このエクササイズガイドでは,「身体活動」を安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動きのことと定義し,「身体活動」の中には体力維持・向上を目的として計画的・意図的に実施するものを「運動」,職業活動上のものも含む運動以外のすべての動きを「生活活動」と定義しています(図2)。

図2

そして,この「身体活動量」の単位をエクササイズ(EX)として表現し, 「身体活動量」(EX)=身体活動量の強度(メッツ)×活動の実施時間(時) で表されます。メッツとは,身体活動量の強さを表す単位であり,椅子に座って安静にしている状態を1メッツとし,その何倍に相当する強度かで表しています。ちなみに普通の歩行が3メッツ,早歩きは4メッツに相当します。たとえば,普通の歩行を1時間実施すると,歩行にかかる身体活動量の強さは3メッツですから,3(メッツ)×1(h)=3(EX)となり,早歩きは4メッツだから 30分間歩くと,4(メッツ)×0。5(h)=2(エクササイズ)となり,毎日30分間の早歩きを日課とすると2(EX)×7(日)=14(EX)となります。1エクササイズに相当する運動と生活活動の例(図3)を参考ください。

図3

生活習慣病予防のための運動量としては,身体活動量として,週に23エクササイズ(メッツ・時)以上の身体活動(運動・生活活動)を行い,そのうち4エクササイズ以上の活発な運動(中等度以上)を行い,メタボリックシンドローム該当者の運動指針として内臓脂肪を確実に減少させるためには,週に10エクササイズ程度かそれ以上の活発な運動量を目標としています。

東京都福祉保健局は「打倒メタボカード」を作成し,広く一般に公表しています(インターネットよりダウンロード可能)。このカードを使ってご自分の日常の運動量・身体活動量を記録しながら,現在のご自分の活動量について見直していただく参考にしてください(図4・5)。

図4 図5

おわりに

まずは,日常の生活の中で,身体活動量を増やすように始めましょう。お勤めされている方は会社の中ではできるだけ階段を使ったり,買い物へは自転車を使わずに歩いていく,歩く時もスピードに強弱をつけながら歩くなど,生活のリズムを崩さずに無理なく身体を動かすように工夫しましょう。すでに生活習慣病の疾病のどれかにかかってしまっている方でも病状が安定していれば,日常の生活範囲内の身体の動きであれば,ほとんど心配なく実行することができるでしょう。運動=スポーツと考えずに,日常の生活の中で身体を動かす方法を考えていくことでメタボリックシンドロームに打ち勝つ方法を考えていきましょう。

パネルディスカッション<健診結果の読み方>

「血圧から見えてくるもの」

吉田幸子
東京内科医会理事,綾瀬クリニック 吉田幸子

健診の意義

メタボリックシンドロームを強く疑われる方と予備軍と思われる方を合わせると40歳以上では男女ともに多くなります。本年4月よりメタボリックシンドロームの考え方と診断基準をもとにした特定健診,保健指導が始まりました。すなわち,生活習慣を変えて内臓脂肪を減らすことで,危険因子(高血圧・高血糖・高脂質症)を改善す るということです(図1)。

図1

まず,医療保険者から約5,600万人が対象者と試算される40歳から74歳の加入者に受診券が送られます。受診券と保険証を持って住居区の医療機関で健診を受けることになります。健診後,住居区により形式は異りますが,検査結果の説明があります(表1)。

表1

高血圧=サイレントキラー

これから,危険因子の1つである血圧の数値の読み方,次に高血圧はなぜいけないか,健診後の対応,家庭血圧測定について話します。血圧の保健指導判定植は収縮期130mmHg以上,拡張期85mmHg以上です。受診勧奨判定値は140/90mmHgですから,正常値は130/85 mmHg 未満ということです。ここで保健指導値というのは,腹囲が,男性85cm以上,女性90cm以上またはBMIが25以上の方の判定基準値の追加リスクの1つになるということです。すなわち,血圧130mmHg以上または拡張期85mmHg以上又は薬剤治療を受けている場合は指導対象者となります。この血圧値は日本高血圧学会の血圧分類から決まったものです(表2)。

表2 図2

では,高血圧を放置しておくと何故いけないかという説明をします。日本人にとって高血圧は身近な病気です。しかし,高血圧で何か症状があって辛いということは聞きません。高血圧はサイレントキラー(静かなる殺し屋)の別 名があるように自覚症状に乏しく,命にかかわる脳や心臓の病気の発症につながった時には「手おくれ」になる場合が多いという特微があります。

日本人の三大死因は,ここ4半世紀ずっと1位は悪性新生物(癌)で約3割,2位が心臓病,3位が脳血管疾患で,2位と3位を合わせると28%で1位と同じです(図2)。この心と脳は腎を含めて,血管で出来ている臓器で動脈便化=血管の老化が起こりやすく高血圧が関与しています。また,末梢の小動脈が硬くなると血管の抵抗が大きくなり,血圧が上昇して心筋肥大となり心不全になります。高血圧を治療するのは,そのような合併症を未然に防ぐためなのです。

血圧の測定

基本はもちろん血圧の測定です。血圧はいろいろな原因で時々刻々変化しています。病院や健診という日常生活と異なる場で緊張して血圧が上がってしまう白衣高血圧といわれる方。健診では高血圧でないのに職場や早朝に血圧の上がる仮面高血圧という方がいます。健診でみつかりにくい,したがって放置されてしまう仮面高血圧は危険ですが,白衣高血圧は心配いらないでしょうか。その判断の助けに家庭血圧測定が大切です。最近は,家庭血圧計が普及し,信頼度も上がってきていますから,保健指導対象以上の方には是非日常生活の血圧測定をおすすめします。

家庭血圧測定の注意は,トイレをすまして暖い室内で坐位で測定して下さい。血圧計は上腕にカフを巻いて測るタイプのもので,カフの位置が心臓の高さになるように調節して2~3分待って緊張をとって測定して下さい。できれば,朝晩2回,時間がなければ朝起床1時間以内で,朝食,服薬前の測定をおすすめします。家庭血圧測定は降圧剤服用の方を含めて,自身で生活改善の効果がわかりますので習慣にして頂きたいと思います。しかし,血圧値を自己判断して降圧剤を減らしたり中止したりしないようにお願いします。

パネルディスカッション<健診結果の読み方>

「血糖、LDLコレステロール、中性脂肪」

谷田貝茂雄
東京内科医会 常任理事,やたがいクリニック 谷田貝茂雄

1.尿糖の読み方

おしっこの糖をとったときに,図1のように「+」「-]とか「+2]「+3]とか印刷されます。尿の中には,たんぱくや血液とかケトン体もこのようにプラスとマイナスであらわされます。

図1

血糖,すなわち血液の中に吸収された糖は,腎臓で一旦ろ過されるのですが,ある程度以上血糖が上がると,尿の中に漏れ出てきて「尿糖]となります。血糖が大体170 mg/dl 以上で尿糖が出現します,これを覚えておいてください。尿糖が出ていれば,一般に血糖は170 mg/dl 以上である。ただし例外として,血糖値が100 mg/dl程度でも尿糖があらわれる腎性糖尿というものや,風邪を引いているとき,妊娠中などでは尿糖があらわれることもあります(図2)。

図2

したがって,尿糖が陽性(+)であれば血糖は170 mg 以上ということになります。また,図3のように当然食事をとると血糖は上がったり下がったりするわけです。そして,血糖がもしも170 mg/dl 以上に上がれば,尿糖として出てくる可能性があります。

図3

尿糖も血糖も食事の影響を受けます。通常,正常な人は食後でも尿糖は陰性です。しかしながら,図3を見ると,糖尿病で血糖が170mg/dl以上に上がる人でも空腹時では尿糖は陰性に出ることがあるので,糖尿病の方でも陰性に出ることはあります。尿糖は,食事をした後の一回ではかった血糖と違って,膀胱にたまった尿なので,食後高血糖という食事をした後の高血糖のよい指標となります。

2.空腹時血糖と食後血糖の読み方

健診のときに「今日,朝ご飯を食べましたか。ご飯を食べてから10時間以内ですか,10時間以降ですか。食後何時間ですか」と聞かれることがありますが,これは空腹時の血糖と食後の血糖では,血糖の評価が当然違うためです。空腹時血糖の正常値は110 mg 未満。ただし,110 mg 未満であったとしても,現在は厳しい基準で,100~109mgは正常高値高血糖と評価されています。空腹時血糖が126 mg 以上であれば糖尿病型です(図4)。

図4

食後高血糖,随時血糖,負荷後血糖,すなわち,ご飯を食べてからの血糖や,いつでもいいからはかった血糖や,決められた糖分(医療機関に行って「75gの糖分が入った炭酸入り検査水」を飲んではかった検査の血糖)で140 mg 以上あると食後高血糖と呼ばれ,心筋梗塞,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症などの危険ありとなります。食事・運動療法,薬物療法を含めた治療が必要です。ご飯を食べた後140mg以上は食後高血糖だということです。そして,食後でも,いつはかったものでも,負荷の後でも,200mgを超えれば糖尿病です。

食後2時間値140 mg というと低い値だなと思われるかもしれません。高血圧の正常値120/80mmHgも非常に厳しい値だと思われます。糖尿病の早期発見,早期治療介入のため,この診断をする必要があり,正しく評価することが必要です。

図5

図5のように朝食,昼食,夕食,健康な人はおのおの140mgを超えないぐらいで推移していますが,食後,血糖がドーンと上がり200 mg に近い人、そしてそれらの人は将来糖尿病の形となっていきますから,食後の血糖が高い場合を見逃さないようにすることが大切です。

3.HbAlc値の読み方

ちょっと見なれない字ですが,HbAlc(ヘモグロビンAlc)とは,食事や運動に影響されにくく,いつ採血しても1~2ヵ月前からの平均的な血糖コントロール状態をあらわします。これによって薬を変えたり,いろいろなコントロールをすることが可能です。しかし,1回とったHbAlcの値で糖尿病の診断をすることはありません。糖尿病の経過を見る上ではよい指標になります。つまり,HbAlc値は,1~2ヵ月平均血糖の様子であるということです(図6)。

図6 図7

図7は,私が患者さんに説明している日本の標準です。今までしたお話は,私がどう思っているかではなくて,目本の標準ではどう考えられているかということです。「優」・「良」・「可」・「不可」とされて,「可]の中には「不十分」・「不良」があります。これを私は「昔の通信簿」と呼んでいます。「大変すぐれている」,「ややすぐれている」,「普通」,「やや劣る」,「劣る」,こういうふうに「通信簿」で考えて,優・良・可(不十分・不良)・不可と,HbAlcの値で治療の様子を評価しています。

4.中性脂肪値の読み方

中性脂肪値はメタボリック症候群の判定基準となるものですが,空腹時の採血で150 mg/dl 以上あれば,それは高中性脂肪血症です(図8)。もちろん朝食,昼食,夕食で血糖は上がったり下がったりするわけで,中性脂肪値も上がったり下がったりします。

図8

しかしながら,次にお話しするLDLコレステロール(悪玉コレステロール)は,食事や1日の変化はあまりなく推移します(図9)。したがって,もう皆さんおわかりのとおり,糖尿病になってくると,血糖は食事のたびに上がり,中性脂肪も上がるので,中性脂肪が食後高いようなことがありましたら要注意ということをここで覚えておいてください。

図9

5.LDLコレステロールの読み方

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は,図9のとおり1日の変化があまりなく,140以上であれば脂質異常症(昔の高脂血症)というものになります。治療には段階的な階層があります(図10)

図10

カテゴリー1.狭心症や心筋梗塞が一つでもあれば,目標は100 mg 未満に下げてください。

カテゴリー2.脳梗塞,足の血管が狭くなって歩くと痛みが出る閉塞性動脈硬化症,先ほど申し上げた食後高血糖や,いつはかっても血糖が140mg以上あるような糖尿病。一つでもあれば,目標値は120 mg 未満。

カテゴリー3.これに大体皆さん当てはまる方が多いんですが,男性で45歳以上,女性で55歳以上。または,高血圧,喫煙,冠状動脈疾患(狭心症,心筋梗塞など)の家族歴。そして次に申し上げるHDLコレステロール(善玉コレステロール)が40 mg 未満の方。目標値は,上記のいずれもなしは160mg未満,1~2個ありは140mg未満,3個以上が120 mg未満とされています。おうちに帰ったときにそれぞれ皆さん自分はどれに当たるからどこまで下げなくちゃいけないかということをお考えください。

6.HDLコレステロールの読み方

HDLコレステロール(善玉コレステロール)は,40 mg/dl 以下だとよろしくない(図8)。なぜなら,このHDLは高いほうがいいコレステロールだからです。先ほど来話題になっているメタボリック症候群は,男性で腹囲85 cm, 女性で90cm以上,かつHDLコレステロールが40 mg/dl未満の方はこの項目を満たしてしまうからです(図11)。

図11

7.まとめ

図11

尿糖が出ていれば,一般に血糖値は170mg/dl以上あります。空腹時血糖の正常植は100mg 未満。100~109 mg は正常高値とされています。食後血糖,随時血糖,いつはかっても140mg以上あれば食後高血糖,200以上あれば糖尿病です。HbAlc値は1~2ヵ月の血糖平均の様子です。 中性脂肪の正常値は空腹時採血で150mg 以下。食後高中性脂肪は,耐糖能異常,メタボと関係があります。LDLコレステロールの正常値は一般に140 mg 以下と健診では書いてありますが,それぞれの方の持つ危険因子によって,100,120,140,160になる。これについては,自分が当てはまる項目をごらんください。HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40 mg 未満であればメタボリック症候群と関係があるので,健診のときに必ず見ておかなくてはいけません。

パネルディスカッション<健診結果の読み方>

「特定検診と肝機能検査」

石川徹
東京内科医会 理事 石川徹

1.メタボリック・ドミノと脂肪肝

今年から始まった「特定検診」は「メタボリック症候群」を対象にしています。腹囲を基準に血圧測定や血液検査による脂質,血糖などにより判定されることになっています。しかし,特定検診にはメタボリック症候群の診断には一見,関係しない肝機能検査も含まれています。どうしてでしょうか。

メタボリック・ドミノという概念があります。遺伝的要素に生活習慣が加わって内臓脂肪が蓄積し「肥満]が発生,「インスリン抵抗性」の状態となり,次第に「食後高血糖,高血圧,高脂血症」を発症,放置しておくと様々な合併症を引きおこし最終的には「透析,失明,脳卒中,心不全」などにまでドミノ倒しのように進行していくというものです。実はこのドミノ倒しのかなりはじめのほう,食後高血糖などに続いて「脂肪肝]があるのです。つまり,メタボリック症候群の早期の診断,対策に肝機能障害,脂肪肝が関与しているというわけです。実際,脂肪肝でのメタボリック症候群関連の各疾病の合併率は,脂質代謝異常が約50%,高血圧が約30%,高血糖が約30%と高率であり,そしてメタボリック症候群に該当する方は約30%といわれています。

2.検診での肝障害の発生率は

特定検診で行われる肝機能検査はGOT(AST),GPT(ALT),γ-GTPの3種類です。これらの肝機能の数値が基準値を超える方はどれくらいおられるでしょうか。人間ドックなどの結果によれば1980年代から肝機能障害は肥満や高コレステロール血症とともに増加を続けています。東京都板橋区の基本健康診査の結果をみてみます。板橋区では基本健康診査は35歳以上の一般住民が対象ですが,平成18年度の受診者は男性32,984人で肝機能異常者は7,065人(21.4%)女性59,614人で肝機能異常者は9,351人(15.8%)であり,男性では5人に一人,女性では6人に一人という結果でした。年齢別にみてみると男性の場合は30歳代から20%を超え,40~50識代半ばまでは30%にもなります。一方,女性の場合は30歳代では10%以下と少なく,50歳代から増加し約20%となってきます(図1)。

図1

3.肝障害の大部分は「脂肪肝」

肝機能障害の原因としては多数のものが考えられます。ウィルス性の肝炎(B型,C型肝炎それぞれの罹患率は板橋区の肝炎ウィルス検診ではそれぞれ約1%),薬剤性の肝障害,自己免疫性の肝障害などですが,一般検診で発見される肝機能障害の原因の大部分は「脂肪肝」であるとしてよいでしょう。そして,この脂肪肝が先ほどのようにメタボリック症候群と関連してくるわけです。

脂肪肝の場合,その原因は大きく分けると2つになります。一つがアルコールの多飲によるもの,もう一つが非飲酒者における脂肪肝です。アルコールの多欲による脂肺肝は血液検査でγ-GTPの上昇が特徴的です。正常値は男性の場合80以下ですが,この数値が100以上に上昇し,続いてALTやASTなどの肝機能が異常になってきます。この状態でさらに飲酒を続けると,アルコール性肝炎さらには肝硬変にまで進行してしまいます。治療法はアルコールを控えることが第一です。飲酒が習慣になっている方は週に2回は飲酒をしない「休肝日」をつくること,血液検査を時々行いγ-GTPを基準値内,あがっても100未満にコントロールすることが必要です。なお「アルコール依存症」と診断された方は完全に断酒しなければなりません。最近増加しており,肥満やメタボリック症候群と密接に関係しているのが飲酒と関連しない非飲酒者の脂肪肝です。

4.NASHとNAFLD

ルコールが原因ではない脂肪肝として2つの疾患の概念が提起されています。「非アルコール性脂肪肝炎(Non Alcoholic Steato Hepatitis :NASH)」と「非アルコール性脂肪性肝疾患(Non Alcoholic Fatty Liver Disease : NAFLD)」といわれるものです。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とは1980年に米国で提案されたものです。多飲歴がない(週に1回以下)にもかかわらず,組織学的にアルコール肝炎に類似し,肝硬変への進展をみとめる20症例を報告し,中年以降の肥満・糖尿病の女性に好発するとしています。その後,1986年により広い概念として,飲酒歴がない(20g/日にもかかわらず,アルコール性肝障害に類似した組織像を示す多くの成因による疾患群をまとめて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)として提案されました。NAFLDの90%は単純性脂肪肝で,10%がNASHであると考えられています。

はじめにお話ししたように遺伝的な要因に生活習慣が加わり,インスリン抵抗性,肥満状態から脂肪肝が発生します。この過程をファースト・ヒットといっていますが,この状態に酸化ストレスや細胞障害といったセカンド・ヒットが加わった場合にNASHに進展すると考えられています。

5.脂肪肝の診断

脂肪肝の診断方法です。血液検査においてAST,ALT,γ-GTPの軽度(通常100以下)の上昇がみられ,さらに画像診断といわれる腹部の超音波検査あるいはCTにより脂肪肝に特徴的な所見がみられますので,通常は血液検査に画像診断を加えて診断することができます。なお,血液検査によりウィルス性の肝疾患や自己免疫性の肝疾患を否定すること,問診などで,アルコール性の肝障害を除外しておくことが必要です。また脂肪肝とNASHの鑑別は,血液検査や画像診断では一般に困難であり(進行したNASHの場合には血小板の減少やヒアルロン酸上昇など,肝硬変を示唆する数値を示しますが)確定診断のためには肝生検を行って病理学的に診断を行うしかありません。

6.脂肪肝の予後

NAFLDの90%を占める単純性脂肪肝の予後は良好であり病態が進行することはほとんどありません。一方NASHの場合,予後は必ずしも明確ではないものの,5~10年で5~20%が肝硬変に進行するとされ,さらにその一部は肝臓がんになるといわれています。NASHの悪化が予想されるのは,AST80以上が持続する,糖尿病や高度の肥満を合併している,生活習慣の是正ができない,が特徴とされており,脂肪肝でこのような状態に当てはまる方は特に注意が必要です。いずれにしてもNASHは脂肪肝から進展していきますので,脂肪肝を放置せず,きちんと治療することです。脂肪肝の治療は,あくまでも食事療法と運動療法が基本であり,肥満を解消することが原則です。

パネルディスカッション<健診結果の読み方>

総合討論

総合討論の様子
吉田幸子(東京内科医会理事)
谷田貝茂雄(東京内科医会常任理事)
石川徹(東京内科医会理事)
山田淑儿(座長/東京内科医会常任理事)

山田(座長)では,今までのご講演をふまえて先生方のお話をうかがえればと思います。まず,家庭でおはかりいただく血圧計をお持ちの方が大概おっしゃるのは,先生のところへ来てはかったのとうちではかったのと大違いだ,どうしてくれるみたいな話です。吉田先生,これはどういうふうに考えたらよろしいでしょうか。

吉田 確かに,家庭血圧は診療所とか健診ではかるよりも10ぐらいの差があると思います。先ほど,血圧は時々刻々いろいろな原因で上がったり下がったりするというお話をしましたが,診療所や健診では,「これから血圧をはかる]「健診をする」という非日常的なストレスや緊張感がありますので,それが一番の原因です。したがって,健診のときは高く出て,家で落ちついてはかったときは低いというのが普通だと思います。逆なのは,先ほどお話ししたように仮面高血圧で,非常に予後が悪く,これはいろいろな合併症を起こしやすいので注意が必要ですが,普通は「白衣高血圧」,つまり,診療所ではかっかほうが高いのが普通だと思います。私は患者さんに,それぞれの血圧,高い低いともにすべての血圧はあなたの血圧ですといっています。はかるチャンスによってこれだけ差ができるということだと思います。ひとつには治療をするかどうかという判断のときに,また家庭血圧と診療所または健診の血圧値の差で医者が薬を選んで薬物治療をする,その一つの目安になります。 つまり両方の血圧値とも正しいと思います。

山田 最近は血圧を記録する手帳みたいなものがたくさんあるので,ご家庭で記録していただくとありかたいです。そして,それをかかりつけ医にお持ちになって,指導を受ける,あるいは質問をしていただくというのがよろしいかと思います。

続いて谷田貝先生にお問きしますが,昔ながらのインスリン療法を始めとする糖尿病の治療というのは激変しました。健診を受けられた方がそれを理解するにはなかなか難しいかと思うので,例えば,糖尿病の人がこんな自覚症状があったら危険という,そういうものはありますか。

谷田貝 よくみかける例を一つだけお話ししますと,ずっと糖尿病のお話をしているにもかかわらず,お薬やインスリンの治療がなかなかできなかった方が「先生に体重減らせよといわれてたんだけど,いよいよ減ってきたんだよ! のどがかわく,ジュースがとってもおいしい。ペットボトルの水がおいしい。おしっこが出る。いやあ,ぽんと,体重が減ってきたんだ」といったときにはもう本当に要注意です。糖尿病は軽いものには症状は全くありません。お酒を飲む方や,体重がそれほど多くなくて糖尿病といわれていた方がやせてきたり,おしっこがたくさん出てきたり,のどか乾いてきたときには極めて重症の段階だということを覚えて帰っていただきたいと思います。

山田 さて,今日は糖尿病の大ベテランの菅原正弘先生(東京内科医会副会長)が会場にいらっしゃいますので,お聞きしたいと思います。以前から内服治療をされていた方が血糖値のコントロールが悪くなり,最近はインスリンを導入されるケースが増えてきました。一般的にインスリンの管理は難しいですが,インスリン治療にしたほうがいいのはどういう場合でしょうか。

菅原 経口薬を使っていても,HbAlcという血糖値の最近の1~2ヵ月の血糖の平均が大体8%を超えてしまったような状況においては,お薬はもう既に無効になっている状況です。したがって,こういった状況においてはインスリン治療をぜひ行ってほしいと思います。そのまま経口薬で押して膵臓がくたびれてくると,インスリンが全くつくれなくなってしまうんですね。そうしたら一生インスリン治療をしなければいけないわけです。しかし,早い段階で一時的にインスリンに切りかえますと,その間膵臓が休めます。血糖が高いと,インスリンの働きが悪くなったり,膵臓からのインスリン分泌が落ちます。早い段階でインスリンを用い血糖値を良い状態にコントロールすると,再度胆臓からインスリンが出てきて,インスリンの働きもよくなって,インスリンを中止しても今までよりもっと少ないお薬でもっとコントロールがよくなります。HbAlcも6%から6.5%ぐらいで,より少ないお薬でコントロールできるということはしばしばあります。インスリンの総単位数が20単位をきると経口薬への変更を考えます。ですから,1~2カ月間,場合によっては3ヵ月間ぐらいインスリンを使っていただけるとそういう効果が期待できますので,コントロール不良になりましたらためらわずにインスリンをつかっていただきたいと思います。

ただし,食事療法と運動療法は基本なので,これをしっかりやって,かつコントロール不十分な場合にはインスリンを使うということになります。最近は,効果の持続する持効型インスリンというのが出てきましたので,例えば経口薬,SU薬を飲みながら,1日1回だけ持効型インスリンを打っていただくという方法も行われています。思ったほど痛くなくて,実際におなかに打ってみますと,インスリン注射に関しては痛みはもうほとんどなくなっています。中にはズボンの上からインスリンを打っている方もいらして,それほど毎回毎回消毒してきれいにしないと感染するというようなことはまずありません。皆さん方が思っているよりかは楽にインスリンを導入できる状況になっています。ぜひためらわずにインスリン注射を考えていただきたいと思います。その他,糖尿病患者さんが妊娠した場合や,手術時,胃腸炎などで食事の摂取が全くできなくなった時等は,インスリン治療にきりかえる必要があります。

山田 ありがとうございます。HbAlcがなかなか下がらないという方は,ぜひかかりつけ医にご相談いただきたいと思います。最後に肝臓の詣ですが,脂肺肝には危険なものと,危険でないものがあるというふうに先ほどお話をいただきました。ただ,肝機能は通例この3つぐらいしか出てきておりませんので,異常があったときには果たして肝炎型なのかNASH型なのか,どれかよくわからないと思うんですね。そういうときは,石川先生,どうしたらいいのでしょうか。

石川 まず,健診で肝機能に異常が見つかったら,たとえほんの少しでも,これは大したことないから,あるいは自覚症状がないからということで,ほうっておくことがないようにということが第一です。最低でも画像診断,腹部の超音波の検査かCTの検査をしていただくことが大切ですし,先ほど鑑別の診断というところでもお話ししましたが,ウイルス性の疾患等がもしあったらそれはインターフェロン治療などをきちんとやっていただかなければいけませんので,そういう検査もあわせてやっていただくことがとにかく必要です。特定健診の検査項目というのはスクリーニングのいわば入り口の検査です。したがって,肝臓に異常があるのかないのかということしかわかりませんので,それ以上のエコーの検査,あるいは,その上で必要であれば入院をして肝生検等の検査まで進めなければいけないという方もいらっしゃるのではないかと思います。

山田 ありがとうございました。肝機能に異常があったら放っておかないでください。裏に隠れている病気がたくさんあり得ますし,健診だけの3つの検査ですべてがわかるわけではありませんので,放っておかずに,ぜひかかりつけ医にご相談いただきたいと思います。

谷田貝 最後に少し追加させていただきたいのですが,先ほど私がこの会場に入ってまいりましたら,ご婦入の方が「体脂肪」という言葉で「中性脂肪」のお話をしていました。先ほど宮崎先生やその他の先生方がお話しした「内臓脂肪」は,「中性脂肪」,「体脂肪」とは違います。「内臓脂肪」をおなかのへその高さで切って見ることはできないので,腹囲を測定しています。正常は男性の場合は腹囲85cm以下,女性は90cm以下です。中性脂肪というのは,血液検査でとった値を中性脂肪というわけです。体脂肪というのは,体重計を買うとついてくる体脂肪測定器械で,足と足の間の抵抗をほかって推測したものを,10何%とか20%とか,例えば,モデルさんは一けただとか,そんなことをいっているだけなので,そこを短絡しないように,正しい言葉を身につけるとよろしいと思います。

山田 ありがとうございました。おへそ周りのカット面で内臓脂肪100 cm2以上がメタボだというのが今の基準です。ところが,胴長の人もいますしそうでない人もいますので,メタボの概念,おなか周りだけでは当てにならない。特に女性の場合は,内臓脂肪も多いけど皮下脂肪も多いという方もおられるんです。男性のおなかぽっこり型は大体当てはまります。そこで,メタボの概念のおなか周り幾つという女性の数値はあんまり当てにならないので,難しい話ですが血液でサイトカインを調べるという方法もないわけではないんですが,確立されていません。つまり,大まかにはメタボという概念はあるんですが,正確にいうとかなり差があるというふうに僕らは考えておりますので,これはこれからの宿題かなと思っています。以上です。個別のご相談は,ぜひ後ほどの「医療相談会」でお聞きください。