東京内科医会市民セミナー2009

日 時
平成21年10月4日(日)
場 所
新宿住友ビル47階 スカイルーム
テーマ
「薬に関する最近の話題」
共 催
東京内科医会・日本臨床内科医会・興和創薬株式会社

東京内科医会市民セミナー2009は「薬に関する最近の話題」をテーマとして 平成21年10月4日(日)に新宿住友ビル47階スカイルームで、東京内科医会木内章裕理事の総合司会で開催された。

東京内科医会市民セミナー2009

基調講演として東京内科医会武石理事の座長のもと、慶応義塾大学猿田享男名誉教授より「高血圧治療-これまでとこれから」の講演があり、高血圧の治療目標は家庭血圧は135/85以下、診察室血圧は140/90以下であり、脳、冠動脈、腎臓、大動脈に対する合併症の予防が大切と話された。 同時に、運動不足とカロリー過剰によって生じた沖縄クライシスを例に挙げて、メタボリックシンドロームの対策としては生活習慣の改善が必要で、食塩5g/日、野菜を多く摂取し、外食に注意し、アルコールは適度に、早足で一日30分の歩行を心掛ける様にと、参加した区民に分かりやすく説明を頂いた。

猿田享男先生
基調講演「高血圧治療 -これまでとこれから-」 猿田享男 先生

最後に高血圧治療の要点として、家庭血圧の測定、生活習慣改善、薬の効果と副作用を理解し服用し、降圧剤は自己判断で中止せず、まず主治医に相談する様にと話された。 第2席として、当会吉田幸子理事の座長のもと、パネルディスカッション「市民の疑問に答える」が、ジェネリック医薬品について(須藤秀明理事)、お薬情報書のみかた(谷田貝茂雄理事)、健康食品・サプリメントについて(石川徹理事)のテーマで行われたが、各理事の工夫した分かりやすい講演は大好評であった。 次いで、当会理事による個別医療相談が開催された。当初、相談ブース7席を用意したが、医療相談の希望者が多く、急遽3席を追加して10席で医療相談に当たったが、参加者の相談内容に各理事が熱心に対応したため、予定時間を大きくオーバーし、大盛況であった。

パネルディスカション「市民の疑問に答える」
須藤秀明理事
「ジェネリック医薬品について」
須藤秀明 理事
谷田貝茂雄理事
「お薬情報書のみかた」
谷田貝茂雄 理事
石川徹理事
「健康食品・サプリメントについて」
石川徹 理事

最後に、今回の市民セミナーが120名余の参加者が有り、大成功に終わった要因は、猿田慶応大学名誉教授に地域住民を意識した「高血圧治療 -これまでとこれから」の難しいテーマを都民に分かりやすく、ご提示いただいた点が大きいと共に、手弁当で大挙参加し、テーマを担当していただいた先生方の献身的な努力の賜物と感謝しています。

医療相談会

東京内科医会副会長 清水恵一郎 記

基調講演

「高血圧治療、―これまでとこれから―」

猿田享男
慶應義塾大学名誉教授 猿田享男

はじめに

昨日まで琵琶湖で第32 回日本高血圧学会がありました。昨日の夜帰ってきたのですが,その情報も加えて,皆様方に少しでもお役に立つ話ができればと思います。

高血圧とはどういう病気か,どういうふうにして上の血圧とか下の血圧が決まっているのか,あるいは先生のところではかる血圧とおうちではかる血圧,さらにはこのごろ携帯型の血圧計がありますが,それらがどういう意義を持っているか,また新しい検査法もどんどん出てきました。そして特に重要なのは,糖尿病,肥満と血圧の三つは非常に関連が深いということです。

血圧とは

まず血圧は何で決まってくるのか。血液が流れるのは,一番は心臓のポンプの力です。押し出すポンプ力と,その流れを受けて立つ血管の抵抗,この二つで大体決まってきます。そのほかに,血液の量がどのくらいあるか,血液がどのくらいねばねばしているか,心臓につらなる大動脈の弾力がどのくらいあるか。多くはこの五つで決まりますが,重要なのは心臓から押し出す力,それからそれを受けて立つ血管の抵抗で決まってくるわけです。

先生方は血圧をはかりますと,必ず上の血圧と下の血圧といいます。上の血圧は,心臓が収縮したときの血圧ですから収縮期血圧で,一番高いので最高血圧。すなわち心臓が収縮して血液を送り出したとき,動脈に対する圧力が上の血圧です。これに対して最低血圧(拡張期血圧)というのは,心臓が弁を閉じて心臓からは血液が出ませんが,心臓が収縮した時に押し出された血液が大動脈にたまっていて,そこから大動脈が弾力で血液を出す。すなわち下の血圧というのは,心臓が弁を閉じて心臓からは血液が出てないときに示されている血圧で,上の血圧は心臓が収縮してどっと出したときの圧力です。

お年を召されてくると血管が硬くなりますが,できるだけ心臓の力で末梢まで流さなければいけないから上の血圧がどんどん上がってきます。これに対して下の血圧は動脈硬化で弾力が低下して,だんだん下がってくる。ですから65 歳ぐらいになって,上の血圧が高いけど下が低いからいいやというのはむしろ危ないんです。動脈がかたくなってしまっているということです。上と下の間が大きくなるほど危険だということを知っておいていただきたいのです。

血圧のはかり方

血圧のはかり方で大切なことは,心臓の高さにカフを巻いた腕が来る形ではかります(図1)。一番いいの血圧計は昔の水銀の血圧計ですが,水銀中毒の問題があり,それでデジタルの血圧計など今はよく使われています。

図1

もう一つ重要なのは,手首ではかる血圧計,指ではかる血圧計,上腕ではかる血圧計がありますが,解剖学的には,上腕にカフを巻く血圧計ではかるのが一番正確です。だんだん動脈硬化が来ますから,指先になるとどうしても血圧が少し変わってきます。それから手首ではかるのは楽なんですけど,血管が二つになっていますから,上腕より不正確になりがちで,一番いいのは上腕に巻く血圧計です。

値段は,ある程度の値段ならみんな同じです。むしろ,はかり方に気をつけていただくことが重要です。今は簡単にカフを巻けますが,本当はそこに指が1 本ぐらい入る形で巻くのが理想的です。それから,上腕の3 分の2 ぐらいを押さえる大きさのカフが巻かれているのが一番理想的です。前に私がNHK の「生活ほっとモーニング」に出たとき,シャツの上からはかったら,それでいいんですかという質問がありました。女優さんだったので腕をみさせたらまずいかなと思って薄いシャツの上からはかったのですが,そのくらいは問題ありません。上着からはだめですが,ワイシャツぐらいだったら値はほとんど変わりません。ぜひ覚えておいてください。

さて,実際に血圧をはかるのに,大きく分けて三つあります。一つは,診療所ではかる随時血圧。例えば,薬屋さんのそばにある血圧計ではかるような血圧で,これが一般的なものです。もう一つは,家庭で皆様方が家庭血圧計ではかる血圧。それからちょっと難しいですけど,腰のところにデータを記録する装置をつけて上腕にカフを巻きつけておいて24 時間の血圧を測ることができる携帯型自動血圧計による測定です。一昨年から保険の適用もとれています。ですから一般の随時血圧と,家庭で皆様がおはかりになる家庭血圧と,24時間の血圧測定の三つがあり,それぞれの意義があるということです。

家庭血圧での一番のポイントは,いま申し上げたように上腕ではかる機器を用いていただきたい。なお,測定するときの体位は寝てはかるなら常に寝てはかるんですが,一般的にはいすに座ってはかるはかり方がいいと思います。はかる時間については,私ども高血圧学会としては朝と夕2 回はかってもらいたい。どうしてもだめな方は朝1回でいいです。一番重要なことは,朝起きて1 時間以内に,トイレ・洗面を済ませてご飯の前,お薬を飲む前にはかっていただきたいです。

ほとんどの方は1回目が一番高いです。2回目で低くなります。3回目はさらに低くなります。どれをとるかというのは,実は高血圧学会でももめています。いろいろな考え方があります。1番目は一番高いから,1番目の血圧を毎日はかっていけば,一番怖いところを知ることができるという先生もいます。それから2回あるいは3回はかる方は,安定したところではかるという考え方で,2回,3回はかって,その平均値をとる。あるいは3回はかる方は,一番近い値の2回の平均値をとるという形でもやっていますが,それぞれの意義があります。

皆様方が毎日はかるならば,それを必ず記録して先生におみせいただくことが重要です。私どもとすれば,おうちの血圧は非常に大切ですから,それを知ることによって治療できます。

それからできれば夕方にはかります。寝る前が一番いいんですが,お酒を飲んでもおふろに入ったあとでも結構です。一番低いのは寝ているとき(夜中)です。朝と夕でどのくらい違いがあるかということを私たちは知りたいんです。朝が一番高いのは,大体目が覚めるころから緊張してきて,神経が働き出し,そのために血圧が上がってくるからです。朝の6時から7 時ぐらいが血圧も上がるから,脳卒中も心臓病も一番多い。

もう一つ,朝ご飯,薬を飲む前にはかっていただきたいというのは,皆様方は大概朝1 回薬を服用していると思います。つまり,翌朝まで本当に薬が効いているかどうかを知りたいということです。それを記録しておいて先生におみせすれば,先生方は薬は効いてないんだな,場合によっては朝夕2 回飲んだほうがいいかなというふうに決めるわけです。そういった点で朝の血圧は,薬を飲む前にはかっていただきたい。それから1 回目,2 回目,3回目とだんだん下がってきますが,1 回目は一番危険性があるので,それも意義があるんだということを知っていただきたいと思います。

血圧の変動

図2

図2は実際に私の患者さんですが,このくらい血圧は動揺します。夜中に寝ているときが一番低くなります。朝方から交感神経という緊張する神経が働いて血圧が上がり,ここが一番高くて脳卒中・心臓病が多い。日中は高い状態が続き,おうちへ帰ってこられて少しくつろいで,寝る前ごろになるとまた低くなって夜中は一番低くなります。実際24 時間携帯型の血圧計ではかりますと,図3 のように動揺します。三つのタイプがあります。

図3

普通の方の場合には,寝ると大体血圧が下がります。それで朝方起きてくると高くなる形をとります。ディッパーと変な名前がついていますけど,これが普通のタイプです。要するに寝ると神経がおさまりますから,血圧が下がってくるわけです。

ところが,ある病気の方だと下がらない。夜,眠れない。よく電車の運転士さんが眠ってしまう,お太りになっていて無呼吸症候群だと。そういう方では,血圧が下がってこない。下がらないために心臓とか血管が障害されてしまう。これはよくあります。かなり年をとられた方は,よく血圧がどんと下がり過ぎてしまう。これもまた危険です。脳梗塞を起こす。ということで,そんなにうまくいきませんけど,手ごろに血圧が下がる形が一番いい。なおあまりにも血圧の動揺がある方の場合には,24時間携帯型血圧計でタイプをみて先生方は治療方針を決めるということです。そういったことも,ぜひ知っておいていただきたいです。ですから血圧のはかり方として,24時間の血圧の変動が大切なんだということを知っておいてください。

また,白衣高血圧と仮面高血圧(逆白衣高血圧)というのがあります。白衣高血圧というのは,何となくあの先生は嫌だなとか,病院は嫌だなと思うと血圧がぽんと上がってしまう。診察室から出てくると血圧が下がってしまうということで,診察室では高血圧ですが,うちでは正常の血圧。かなり精神的因子が働いています。これからいいます仮面高血圧よりは危険性が少ない高血圧と考えられています。

仮面高血圧は,診察室での血圧は正常です。先生方はこのくらいだったら薬を少し控えてもいいかなと減らすと,うちに帰って,仕事場ではぼーんと上がって脳卒中を起こす。あるいは,いい薬は24時間効きますが,作用時間が短いと,朝飲んできて診察では正常ですけど夕方とか翌朝になると血圧が上がってしまう。仮面高血圧というのは,このようなタイプであり,非常に危険性が高いということです。

降圧薬を服用している人では,朝,薬を服用して診察を受けるときは薬の効果はよく出ていますが,夕方とか翌朝になると薬の効果が切れてしまって血圧が上昇することがしばしばあります。また降圧薬を服用していない方で夜中血圧がかなり下がり,早朝に急に著しく血圧が上がる方があります。このような方々は早朝に血圧が上がるので早朝高血圧と名前をつけています。こういった高血圧のほうが危険で,診察室で高いほうがむしろ高いことがわかるということでよいかもしれません。白衣高血圧,逆白衣高血圧(あるいは仮面高血圧)という言葉がテレビなどでもよくいわれていますので,知っておいていただければと思います

したがって,家庭血圧と診察室血圧をぜひともはかっていただきたい。家庭血圧をおはかりいただいて,あとは私どもの診察室血圧とで高血圧治療の方針を決めようというのが今のやり方です。

新しいガイドライン

2009年1月に,日本で新しいガイドラインが発表されました。そのガイドラインでみていただきますと,診察室で先生方がはかる血圧は140/90以上でこれまでどおり高血圧。家庭ではかる血圧については,朝の血圧で138/85以上が高血圧です。診察室血圧より5ずつ低くなっています。上でも下でもどちらか超えれば高血圧ということになります。携帯型血圧計での24時間の血圧は平均値でとります。例えば1 時間ごとに24 時間測って平均します。この方法では130/80が高血圧のラインです。まとめますと診察室は140/90,家庭は135/85,24時間の平均は130/80という形で,今度の日本のガイドラインでは高血圧の定義を決めているわけです。これが最新の定義です(表1)

異なる測定法における高血圧基準

さて,高血圧が問題となるのは,サイレントキラーといって,高血圧が続くことによっていろいろな臓器障害が起こってくることが怖いわけです。すなわち高血圧が続くことによって,血管が障害されて動脈が硬化します。頭に起これば脳動脈硬化,心臓の栄養血管に起これば冠動脈疾患ということで心筋梗塞・狭心症,腎臓に起これば腎動脈硬化(腎硬化症)で透析になったりします。大動脈に起これば大動脈瘤などの変化ということです。

高血圧は血管障害を起こすので怖いんですが,最初に申し上げたように糖尿病も同じように血管の障害を起こして動脈硬化を進行させます。コレステロールが高いと高脂血症ですね。善玉と悪玉がありますが,特に悪玉のLDL コレステロールが高いとやはり血管障害を起こします。高血圧も糖尿病も高脂血症も,それが続くことによって起こる動脈の変化が非常に大切です。こういうものがみんな一緒になって,そこに肥満があるとメタボリックシンドロームというわけです。肥満に高血圧,糖尿病そして高脂血症が生じやすく,これらが重なると非常に怖いということを知っておいていただきたいと思います。

もう一つ,医者は血圧をはかるだけではなくて,皆様方がどういう形でどのくらい動脈硬化がきているかを早く知りたいわけです。それで治療方針を立てます。血圧を治療するだけではない,糖尿病を治療するだけではない,高脂血症を治療するだけではない。動脈硬化をいかに早くみつけて対策をたてるかです。

これまでは血液のLDL コレステロール(悪玉),HDLコレステロール(善玉),中性脂肪をまずはかりました。このごろはあまりやらなくなりましたが,眼底をみます。眼底は直接動脈がみえますので,どのくらい動脈硬化がきているかもわかります。それから心電図で冠状動脈という心臓を栄養している血管の変化とか,心臓肥大がどのくらいかということもわかります。さらにお小水の検査をすると,動脈硬化が進んでくると早くからたんぱく尿が出てきます。こういった検査は今までよくやられてきました。

さらにこのごろ先生方のところにいくと,動脈硬化をみつけるために動脈壁を刺激がどのくらい速く伝わるかというPWV(脈波伝播速度)が測定されています。もう一つは頚動脈エコーです。皆様方の首の頚動脈がどのくらい硬化していて,どのくらいあかがたまっているかということをみて,それがたくさんあると脳梗塞を起こしやすいということがわかりますから頚動脈エコー検査もやります。さらには末梢の動脈が,動脈硬化がくるとどのくらい流れが悪くなるかという脈の変化をはかることも行なわれています

動脈伝播速度の原理

PWV(図4)は,動脈壁を刺激が伝わるときに,血管がしなやかな場合にはスピードが遅い。女性の方は一般に遅いです。血管が硬くなってくるとスピードが速くなります。このような変化が簡単に,痛い思いをしないではかれるようになりました。お年を召されてどんどん動脈壁が硬くなると,すごく速くなってきます。このような新しい検査が先生方の診察現場に取り入れられていますことを是非覚えていていただきたいと思います。

高血圧の定義

成人における血圧値の分類

表2 は,2009年に発表された日本の高血圧治療ガイドラインに示された高血圧の定義,血圧の分類です。正常のところを三つ,高血圧のところを三つに分け,さらに先ほどいった高齢になると上の血圧だけ高くて下が低いというの高血圧が収縮期高血圧です。高血圧は140/90 以上ですけど,140―159/90―99 が一番軽い高血圧です。昔は,軽症高血圧といっていました。軽症高血圧(Ⅰ度)でも糖尿病があると危険です。そういったことで名前を変えようというので,Ⅰ度だとかえって悪いかと思いますがⅠ度が一番軽い高血圧です。昔は中等症といっていたのはⅡ度の高血圧で,160―170/100―109。重症の危険な高血圧をⅢ度高血圧としたのは,180以上/110以上。日本の代表的な地域の疫学研究である福岡県の久山町のデータでは,高血圧の程度が進むと危険性が増してきます

正常のほうも三つに分けまして,一番いい,すべて大丈夫ですよというのが120 未満/80 未満です。正常というのは,130 未満/85 未満です。これから高血圧になるかもしれない正常高値が,130―139/85―89 ということです。収縮血圧が140以上で下の血圧が90未満の場合が,上だけが高い高血圧で,収縮期高血圧ということを知っておいていただきたいと思います。

高血圧の治療

それでは高血圧をどういうふうに治療するか。高血圧の薬の歴史は約50年です。昔は,ヒルを肩に乗せて血を吸わせて血圧を下げたとか,いろいろなやり方がありました。血圧の薬が出てきたのが1950年代です。そのときには,交感神経を抑える薬とか,血管を拡張させる薬です。1950年代の真ん中ぐらいからナトリウム(食塩)が悪いんだということになりました。食塩を体の外へ出す薬として,サイアザイドという利尿薬が出てきました。

この当時の薬は,副作用がありましたが,ともかく血圧を下げないと命が危ないということで,ただ血圧を下げただけです。その後だんだんとβ遮断薬とか,あるいはちょっと難しいですが抗アルドステロン薬という現在もよく使われている薬が出てきました

一番効果的な薬で今使われているのはカルシウム拮抗薬という,血管を拡張する薬です。それからアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とか,アンジオテンシン受容体拮抗薬です。名前が難しいですが,体の中で血圧を上げている一番重要な因子がアンジオテンシンという腎臓のところから出てくる血圧を上げるホルモンです。そのアンジオテンシンを抑える薬で,産生を抑えるのがACE 阻害薬,アンジオテンシンが血管に作用して収縮させるのを抑えるのがアンジオテンシン受容体拮抗薬です。こういう薬が,いま一番使われている薬です。

そのほかにもっと最近には,皆様方が薬を飲み忘れないためにアンジオテンシン受容体拮抗薬と利尿薬をくっつけた合剤というのも出てきました。

図5

図5 は,世界で初めて高血圧の薬の効果をたくさんの患者さんでみて,本当に薬が効いているかどうかを明らかにしたVA スタディーです。プラセボというのは,うどん粉みたいなもので何の効果もない薬です。先ほどいった初期の血管拡張薬とか利尿薬の効果をプラセボと比較しています。下の血圧が115〜129と非常に悪い高血圧で,こんなに事故が起こっていたのが,降圧薬を使うと著しく少なくなっています

では,もっと軽い90〜114ではどうか。皆様方にも,これくらいの方はいらっしゃると思いますが,やはりプラセボと比較して降圧薬を使うと,副作用はいろいろありますが,脳卒中や心筋梗塞などが著しく減っています。血圧を下げればよいことが世界で初めて認められたスタディーで,これ以後どんどん新しい薬が開発されたというわけです。

これまで述べてきたいろいろな薬をまとめると,脳・中枢からの交感神経の活動を抑える薬のほか,末梢で交感神経を抑えるのが,β遮断薬とα遮断薬という薬です。末梢血管を広げる作用が強いのがカルシウム拮抗薬です。

それから難しい名前のアンジオテンシンという血管を収縮して血圧上昇に働くホルモンは,腎臓,末梢血管,心臓に働きます。これを抑える薬がアンジオテンシン受容体拮抗薬とかアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬です。今使われている薬はいずれも末梢のほうで効くので副作用が少なくクオリティー・オブ・ライフのいい薬です。以上の他には,腎臓に働く昔からの降圧薬が利尿薬です。これは塩気を出そうという形の薬です。心臓,腎臓,末梢血管に直接働くほうが中枢から働くよりは副作用が少ないようです。いま使われているのは,こういった薬であります。

実際に古い薬(β遮断薬という交感神経を抑える薬)と,カルシウム拮抗薬やACE 阻害薬といった新しい薬とでどのくらい効果が違うか。表3 は横浜の石井先生が1999 年にまとめたスタディーです。古い薬では,脳・心血管の合併症が32.8%起こっていたのに対して,新しい薬だと半分ぐらいになっています。脳卒中の起こり度も半分ぐらいになっています。副作用も少ない上に,新しい薬のほうが非常に効果的になっています。

表3

死亡推移

さて日本のこれまでの100年間の変化をみますと,第二次世界大戦のころには結核による死亡が一番多く,ストレプトマイシンが出てきて結核は急速に減りました。その後は脳卒中や結核以外の感染症が多かったのです。それからの50年間で脳卒中,心臓病,がんがだんだんとふえてきました。興味があるのは,脳血管障害とくに脳出血は1975年ごろ,塩気を制限するようになったことと降圧薬のいいものが出てきたということで急速に減ってきました。しかし,この後は少し横ばいになっていますが,脳梗塞や今問題になっているメタボリックシンドロームがふえてきて,なかなか減りにくくなっているのです。

次に皆様方の寿命です。ついこの間発表になったのは,2007年で男性が79.19歳,女性は85.99歳です。女性は世界で1 位です。男性は2 位になったり3 位になったりしています。これだけ長くなっているのだから,日本の医療というのは非常にいいんですね。しかし,問題なのは日本の3大死因です。悪性腫瘍はふえたものの少し横ばいになっていますが,心臓病は,2003年,2004年,2005 年とこんなにふえています。脳卒中も2004年は一回減ったんです。ところが2005 年は105.3と増加しています。

何でふえたか。つまり,メタボリックシンドロームなんですね。一番は,日本人の摂取栄養素の時代的変遷です。戦後はたんぱく質12.4%,脂肪はわずか7%でした。ほとんどは,お芋などの含水炭素ですね。その後の経過をみますと,脂肪のとり方が全然減ってこない。マクドナルド,ケンタッキー,そういったものの食べ過ぎがまだ続いているわけです。たんぱく質がもっとふえればいいんですけど。みていただくと総カロリーのとり方は1975年に2226キロカロリーで,そこから減ってきています。減ってきているけど,脂肪のとり方が悪いということが大問題で,厚労省も大慌てでメタボリックシンドロームの対策を立てま した。

もう一つは運動習慣です。1993 年には1 日30分程度の運動をしている人は24.3%,女性20.9%です。2003 年には29.3%でちょっとふえていますが,女性はここからふえていないんです。今もこの状態が続いており,いかに運動しなければいけないかです。食べ過ぎで,とくに脂肪をとり過ぎて運動をしないから肥満です。

もう一つはタバコです。2006年,日本はほかの国に比べて喫煙者が圧倒的に多い。男性41.3%,女性も横ばいで12.4%です。アメリカは26%,英国だって20%ぐらいです。日本がまだまだ多い。タバコはあまり得なことがないんですね。ちょっと息抜きができるとか気休めだといいますけど,得なことはあまりありませんので,ぜひ減らしていただきたいと思います。

メタボリックシンドローム

このようなことで,現在日本人の高血圧は3,500 万人から4,000 万人くらいです。高脂血症は3,000万人,糖尿病もどんどん増加しています。したがって,厚労省が慌ててメタボリックシンドロームの対策を立てたということです。

1人の人に肥満があって糖尿病があって高脂血症あって高血圧がある。全部合併しますと,先ほどいったどれもが動脈硬化に関係しますから,非常に危険だというわけです。

ではなぜメタボリックシンドロームが起こるかというと,食べ過ぎと運動不足,それから太りやすい体質とそうでない体質が遺伝的にあります。これが重なると,まずは肥満が起こります。特に肥満でも,おなかに脂肪がたまるのが一番怖い内臓肥満です。そうなるとインスリンが効かなくなるインスリン抵抗性になります。インスリン抵抗性というと難しく思えますが,何のことはない膵臓のβ細胞から出てきたインスリンが効きにくいということだけです。要するに,おいしいものを食べて血糖が上昇しますが,それを処理するインスリンの効きが悪いということです。内臓肥満の外からの見分け方として,上半身肥満(アメリカ人のタイプに多い)はインスリン抵抗性の人が多く,お相撲取りのようなアンコ型は皮下脂肪が多く比較的によいわけです(図6)。

図6

糖尿病,高血圧,肥満学会など日本の8 つの学会が集まって「メタボリックシンドローム」の診断基準をつくりました。この基準では,男性が腹囲85 cm,女性は90cm と少し女性に甘いんですね。それに血圧が130/85 mmHg 以上,空腹時血糖110 mg/dl,中性脂肪150 mg/dl 以上とコレステロールの中で善玉(HDL-コレステロール)が40 mg/dl 未満のうちで2つの項目が該当すればメタボリックシンドロームです。現在議論があるのが女性の腹囲90 cm です。腹部のCT 検査から危険性を考慮して出された数字なのですが,議論があるところです。これはもうじき変わると思います。男性のほうが問題であることは確かですが。

実際にメタボリックシンドロームが,日本ではどのくらいいるか。日本では女性がこんなに少しですね。10数%です。男性のほうが2倍以上です。アメリカの定義に従うと,全く同じぐらいの頻度になります。そういったことで,少し検討しなければいけないということです。

では,なぜメタボリックシンドロームが悪いのか。先ほど,三つのことをいいました。糖尿病がある,肥満がある,高血圧がある,これが問題です。よくいわれている沖縄のクライシスです。沖縄では,昔(昭和60年)は男性の寿命が一番長かった。だんだん下がってきて,平成7年は 位,平成12年(2000年)には26位です。なぜ下がったかというと,沖縄というのはおいしいものを食べて,ご存じのとおり電車がないので車社会でほとんど歩かない。途端に沖縄のメタボリックシンドロームの発症率がこんなに高くなって死亡数が増加したと考えられています。

要するにメタボリックシンドロームになれば,必ず寿命が短くなりますから,メタボリックシドロームにならないようにやっていただきたいというのが私どものお願いです。

生活習慣の修正

そこでまず高血圧の治療で一番重要なのが,今度の日本の高血圧ガイドラインで示された生活習慣の修正ということです(表4)。

表4

まず塩気ですが,日本で2002年は1 日の摂取量が11.4g でした。今は10.5から11 gの間ぐらいです。今後はそれを半分ぐらいにぜひともしていただきたい。2番目がエネルギーです。皆様方が食べるときに,よく知っているように,ご飯,食パン,牛乳,キャベツで全然内容が違いますね。脂肪が少なくて確かにご飯はいいです。牛乳は,たんぱく質は多いですけれどもこのくらいです。同じ100グラムのカロリーはキャベツだとこんなに少ないです。野菜類を多くとっていただきたいということなんですね。食パンは,特にいろいろなものが入っています。要するに脂肪を下げたいわけですが,牛乳は,1日1本ぐらいならバランスをとるためにはいいかもしれません。

外食は,特にお太りになっている方にはよくない。お寿司,カツ丼,ラーメン,いずれも塩気が3〜4 g ぐらい入っています。お刺身は4.5g。特にカツ丼や天ぷら定食は,脂肪がこんなに高いです。外食では,ざるそばぐらいだとまあまあ脂肪も少なくてよいですね。ぜひともそれを覚えておいてお昼はこういったものをとっていただきたいです。

次にアルコールです。これも日本では非常に重要ですが,大切なのはアルコールにはカロリーとしての問題があります。私ども高血圧学会が勧めているのは,ウイスキーならシングルで3杯,ビールだったら中びん1本,日本酒だったら1合ちょっと,ワインだったら約2杯,焼酎は日本酒と同じようですがカロリーが高いんです。このどれか一つです。これを守れば,アルコールで血圧は悪くならない。

図7

これまでアルコールを飲んでいた人が禁酒するより,むしろアルコールを適当に飲んだほうがよいとの報告も出ています。ですからアルコールは,ともかく基準としてはビール中びん1 本が理想的,日本酒だったら1 合ちょっとですね。

図7 は外国のデータですが,日本も同じような報告があります。要するに,飲んでいた人が禁酒するより少量飲んだほうがかえって血圧が下がるということです。お酒を飲んでいる人がやめたらストレスになって血圧が上がってしまうということですね。

図8

図8は難しいスライドですが,運動がどのくらい血圧を下げるか。これは福岡の荒川先生が日本で基準をつくったときのオリジナルのスライドです。運動を始めると,1日30分の歩行で血圧は明らかに下がってくるということです。上の血圧も下の血圧も下がる,脈拍数も下がる。なぜ下がるかというと,だんだん運動していくとなれの現象といって交感神経が働きにくくなってくる。あるいは,運動していると血圧を下げる物質が出てくる。

もう少し細かいことをいいますと,どのくらいの運動がいいか。これはエネルギーの消費の係数です。歩くと0.05ぐらい,早足歩行ぐらいが理想で,例えばテニスだと0.14とかなり強過ぎます。水泳,平泳ぎだとこんなに使います。私どもとすれば,早足歩行ぐらいのところが理想的で,これを1日30分やれば確実に血圧は下がります。

具体的な運動でいいのは,ウオーキング,水中ウオーキング,サイクリングというところです。テニスだとかバレーだとか,息をとめてやる相撲だとか重量挙げというのは非常に危険なスポーツです。ゴルフもいいんですけど,ゴルフで一番いけないのはパターで最後にどうしても入れよう,入れようと思って神経を使って,そこで心筋梗塞を起こす人が随分いますから,それはだめだということです。遊びでやらなければいけないということですね。

実際に皆様方にやっていただきたいのは,歩行で1 日30分です。先ほどの荒川先生が歩行のスピードに関して,ちゃんと式をつくってくれました。138 から年齢を2 で割ったのを引きます。例えば60 歳の方ですと,138から30を引いた108という1分間の脈拍数で1日30分歩けば非常に効果的だということです。30分なんかできませんという人は,朝15分,夕方15分でもいいようです。あるいは毎日できない人は,1 日置きに1時間ずつ月,水,金でやっても同じ効果です。とにかく一番重要なのは,138からご自分の年齢を2で割ったものを引き算した脈拍数(1 分間の脈拍数)(不整脈がある方は別です)になるような形での運動を30分やれば確実に効果があるので,ぜひともやっていただきたいと思います。

そういったことで,食塩を減らす,野菜(カリウムやビタミンC)を多くとる,BMI(体重指数)を減らす,アルコールはビール中びん1 本にする,そして1 日30 分歩けば,これだけ血圧が下がってきます。これは証拠として出ていますから,うそではないんですね。特に運動というのは非常に効果的です。そういったことが寄り集まれば,薬を使わないでもかなり血圧を下げられるだろうということです。

降圧目標

さてそういったことで,皆様方はどこまで血圧を下げるのか。一応私どもは,診察室血圧では若い人,中年,65歳未満の方は140/90よりもっと下げて130/85ぐらい。65歳を超える方々は大体140/90未満にしていただければいい。ただし糖尿病だとか腎臓病だとか心臓病のある方は130/80 未満,脳血管障害が昔あった人はやはり140/90未満と降圧目標が低くなりました。家庭血圧は,全部5ずつ低くなっているだけです。

ともかく降圧目標が低くなっていますから,これをいかに達成されるかです。いま使われている降圧薬を使用量の順でいきますと,カルシウムを抑えて末梢で血管を広げるカルシウム拮抗薬,アンジオテンシンという難しい名前の,体でつくられている血圧を上げる物質を抑えようという薬,それからお小水からナトリウムを出そうという利尿薬が中心です。そのほかに交感神経を抑える新しい薬もあります。

もう一つ問題なのが,先生方もいけない,患者さんのほうもいけないのですが,降圧目標に達している患者さんがまだ少ないんですね。先生方が私の治療によって大体58%の患者さんはちゃんと目標にいっていますよというのですが,カルテをみて確認しますと,なんとまだ39%で,20%も誤差があるとする報告がでています。早く降圧目標を達成させることが,脳卒中・心臓病の予防になります。

ですから皆様方も家庭で血圧をはかったら記録をして,その記録を先生にみせてもっと下げていただくことです。先ほどいった140/90未満,あるいは糖尿病があったら130/80未満になっているかということが大切です。そういった点で,もっともっとみんなで努力していこうということです。

血圧を下げるために,一つの薬だと不十分であり,下がりが悪ければ,二つ併用しましょうということになりました。皆さんは,何でたくさん薬を飲ませるんだといいますが,併用したほうがよく血圧が下がります。カルシウム拮抗薬と利尿薬。アンジオテンシンを抑える薬とカルシウム拮抗薬,アンジオテンシンを抑える薬と利尿薬という併用療法が効果的で,二つまでは許していただきたいということです。

図9

実際,図9 は私どもの教室の斉藤先生が行なった研究ですが,皆様方をみていますと,薬が一つとか二つのときは非常によく飲んでくれます。服薬が正しく行なわれているかを服薬のコンプライアンス(最近はアドヒアランスといいます)が,85%から90%近い人が二つまでの薬は先生にいわれたとおりに飲んでくれます。3 剤目になりますとかなり服薬率が悪くなります。それから胃の薬とほかの薬を飲んでいる場合も1 薬2 薬までよく,3 薬まで飲むと落ちてくるということで,私どもとしてもできるだけ二つの薬で血圧をコントロールしたいというふうにやっています。

そうなると併用ではなくて合剤にすればよいという考えがでてきます。2 年前からやっときちんとした合剤が出てまいりました。合剤というのは,二つの薬をまぜて一つにしてあるわけです。そうすると,合剤にすれば数が少ないですから忘れない。高血圧治療において併用療法が一般的になってきたことと,合剤をすると薬剤数を減らすことができ,非常に便利です。それから値段も安くなる。欧米ではたくさんの合剤が出ています。

むずかしい名前のアンジオテンシンを抑える薬と利尿薬の合剤は日本ではもう四つ売り出されました。さらにカルシウム拮抗薬とコレステロールを下げるスタチン製剤とを合わせた薬も認可されました。それからアンジオテンシンとカルシウム拮抗薬の合剤が出てきます。皆様方は便利になります。

高脂血症の薬で一番よく使うのはスタチン製剤です。これと降圧薬の合剤が出てきましたが,中性脂肪を抑えるフィブラート系薬剤や消化管から脂肪の吸収を抑える薬も重要です。

糖尿病もいろいろな薬があります。インスリンの注射を打つ場合もありますが,例えば肝臓で糖をつくるのを抑えようとするビグアナイド系,消化管から糖が吸収するのを抑えようというαグルコシダーゼ,膵臓に働いてインスリンを出させようというスルフォニール,あるいは先ほどいった内臓肥満を改善する薬もあります。糖尿病の薬と血圧の薬とはまだ合剤が出てきませんが,糖尿病の薬にも降圧薬と同じでいろいろなタイプがあります。

私どもとしては,血圧はできれば中年の方は130/85未満,LDL(悪玉)コレステロールが120未満,善玉を40以上,中性脂肪は150未満,空腹時血糖はできれば100未満。これは厳しいです。あるいはヘモグロビンA1C という1ヵ月の平均を5.2%。私は日本生活習慣病予防協会の理事をやっているのですが,血圧・脂質・血糖がこのようにコントロールできれば理想的と話しております。そうするとさらに長生きすると思いますので,ぜひやってください。

服薬時の注意

あと一番問題なのは,服薬の注意です。降圧薬の服薬の注意は,降圧薬の数があまり多くならないように,また服薬法が複雑にならないようにするようにつとめます。先生にあまり複雑な服用法にならないようにお願いすることです。現在,使用されている降圧薬は作用時間が長くなっており,重症の場合を除いて大概1 回で済みますけど,多くても朝夕2 回までです。できるだけ前日から,朝あるいは朝夕服薬する薬を小さい容器にでも入れたりして服薬を忘れない方法を考えることです。

服用したかどうかわからなくなった場合は,これが重要ですが,半日ずらして服用する。今は作用が長くなっていますから,すぐに服用せず,服薬したかどうかわからなくなった場合は半日ずらして服用する。すなわちわからなくなったら,すぐ服用せず夕方飲んでくだされば大体効いてきます。

家庭で血圧をはかって低くなったからといって,ご自分でやめないでいただいきたい。血圧は非常に動揺しますから,記録をして主治医の先生と相談する。もし目まい,そのほかがあったら,その日にでも電話してみていただく。上がったり下がったりしていますから,ご自分で血圧の薬を調整するのが一番怖いです。これが,私が考えている服薬上の注意です。

それから皆様方がよくいうのは,降圧薬の服用を始めたら,またやめられるかどうかです。少しの方ですが,やめることもできるのです。両親・兄弟に高血圧や脳・心臓病がない場合は高血圧の遺伝が比較的少ないですから,割とやめやすい。生活習慣の修正をしっかりすること。これは重要です。食塩制限,過食の注意,アルコール制限,禁煙,もちろん運動をやっていただく。

降圧薬をやめる時期ですが,降圧薬を服用して血圧が常に130/80 未満になっている人では,春から夏に向かって止めていくこと。というのは,血圧は季節で変動します。夏になると血管が広がって血圧が下がります。たくさん飲んでいる薬を減らしていって,3 月ごろから1 錠にして,さらに弱い薬にして,5 月,6 月にやめる。また寒くなってくれば,やむを得ない場合は使いますけど,急に止めたり飲んだりしなければそんなに危険ではないので,こういった形を先生にやっていただきます。

もう一つ,血圧を下げる食品というのは,ペプチドだ何だと随分テレビで宣伝しています。しかし,その多くは,降圧薬のようなものが少量入っています。降圧薬みたいなものですから,よく注意しなければいけません。種々のペプチドにはアンジオテンシンを抑える薬のようなものが少量入っています。たくさん飲むと,ひどいときはせきが出たり,いろいろなことがあります。

そして,服用するなら,毎日指示された量を飲まないといけない。1 本のところを3 本飲みますと薬と同じ効果になります。ですからいろいろな副作用が出てきます。一番怖いのは,妊婦がたくさん飲み過ぎると赤ちゃんが亡くなってしまうようなおそれがあります。そういったことで,私は非常に注意しています。指示された量よりたくさん服用したり,服用を止めたりすると意味がなくなるので,飲むならばきちんと飲む。いいかえれば,ちゃんとした薬を飲んだほうがいいということで,その程度です。

糖尿病とか肥満における食品とは少し違うように思っています。血圧に関しては血圧を下げる薬ですから,下げるためには薬のようなものをちょっと入れないとできないということを知っておいていただきたいと思います。ですから明らかに高血圧の方はこういったものに頼らないで,いいお薬を飲んだほうがよいと思います。

おわりに

高血圧治療のまとめですが,高血圧と診断された方は,家庭血圧計を購入し,少なくとも朝1回,できれば朝と夕にはかって記録をしてもらいたい。食塩制限,過食,アルコール制限,禁煙,適度の運動といった生活習慣の修正をしっかり行ってもらいたい。降圧薬の投与が開始された場合,医師の指示どおり忘れずに正確に飲むことが非常に重要です。投薬を受ける際に,薬の特徴と副作用を先生にきちんと聞いていただきたい。それでできるだけ服用しやすいように,忘れないように服用できるようにしていただきたい。家庭血圧を測定していても,血圧は動揺しやすいことから自分で服薬量を調整したり勝手に中止せずに,先生と相談してやっていっていただきたい。

こういうことが,いま日本の高血圧学会が皆様にお願いしていることです。ご清聴ありがとうございました。

パネルディスカッション「市民の疑問に答える」

ジェネリック薬品について

須藤秀明
東京内科医会理事 須藤秀明

はじめに

最近,各自治体において「ジェネリック医薬品を希望します」という区民の意思表示するためのカードが配布されている。このカードを医療機関の窓口に出すことによって生じてくる医療機関と患者さんとの間のトラブルが生じているのも事実である。当院が所属する足立区においても行政に苦情が届いているそうで,内容は「勇気を出してカードを出したが断られた」「思ったほど安くならなかった」などが多いとのことである。

2008 年におけるジェネリック薬品の医薬品全体に占める各国の使用状況をみると,アメリカの68.6%につづきカナダ・ドイツ・イギリスと60%以上を占めているのに対して,日本の割合はわずか20%に満たない現状がある。医療費の節約のために同じ成分であれば安価な薬を使用させようとする国の考え方と,我々使用する側が考えているジェネリック薬品との間にギャップがあるのではないか。足立区医師会会員を対象に行ったアンケート調査の結果も含めて,今後のジェネリック薬品の在り方について考えてみたい。

先発医薬品とジェネリック医薬品

ジェネリック医薬品とは何かを考える上で,避けて通れないのが先発医薬品の存在である。

そこでまず,先発医薬品について,その製造工程や特許の関係などを含めて述べてみたい。

先発医薬品とはいわゆる「新薬」のことであり,その研究開発には非常に長い期間と莫大な費用がかかっている。合成化合物の抽出研究からはじまり,非臨床試験(理化学的試験・毒性試験・薬理試験・吸収,分布,代謝,排泄試験),臨床試験(第1相〜第3相試験)を経て承認申請となる。製薬協研究開発委員会加盟23社の集計による5年間の統計によると,研究開発期間に9〜17年かかり,1成分あたりの開発コストは平均約500億円で,5年間で563589 種の合成化合物が研究され,その中から26 種の新薬が作られているが,その成功率は実に21677分の1 であり,多くは途中で開発を断念せざるを得ない危険性をはらんでいる。これに対して,ジェネリック医薬品はもともと先発医薬品として使用されている成分であるので,開発には3〜5 年程度で開発コストは数千万〜1 億円程度であるとされている。これだけ医薬品として販売されるまでの過程に差がある新薬(先発品)とジェネリック医薬品であるが,そのかわりに先発品は製品として販売されるまで取得される特許,物質特許・用途特許・製法特許・製剤特許があり,これらの特許により最初の特許申請から20〜25年間守られている。新薬(先発品)が販売されてから,少なくとも物質特許と用途特許の期間が切れなければ,ジェネリック医薬品は開発に着手できない。逆にいえば,物質特許と用途特許の期間が切れれば,製法特許と製剤特許の期間が残っていても,これらの特許に触れない製法と製剤を開発すれば製品化できることになり,これがジェネリック医薬品メーカー間の企業格差になっている(表1,図1)。

ジェネリック薬品 ジェネリック薬品

ここで我々使用する側から考えた場合,薬剤の成分が全く同じものであっても,製法と製剤の異なる薬剤が,はたして先発品と全く同じ効能効果が得られるのか? という疑問である。厚生労働省はこの疑問に対して,ジェネリック医薬品の認可の際に,製剤の性質確認試験・製剤の規格試験・製剤の安定性試験・生物学的同等性試験の提出を義務化し(表2),その評価が±2 SD の範囲であれば有意差なし(同等)と判断され,効能・効果が同等であると判断している。しかしながらこれらの試験は,それぞれのメーカーに任されており,試験の対象は健常人で,例数も20 例前後と少なく,臨床試験をおこなう必要はない。つまり同じ成分であり,健常人で生物学的同等性などが立証されているなら,新薬(先発品)が承認時に行った臨床試験と同等な効果効能が得られているはずであると判断している。確かに,新薬(先発品)とジェネリック医薬品は統計学的に同等であるといえるが,ジェネリック医薬品どうしは必ずしも同等とはいえない。たとえばA というジェネリック医薬品が先発品にたいして+0.14であり,B 薬が−0.15であったとき,A 薬・B 薬ともに標準薬(先発品)と比し,±0.2を満たしているため同等性ありと,判断できるが,A薬とB 薬どうしは絶対値で0.29 の差があり,同等とはいえないことになる。先発品(新薬)とジェネリック医薬品の相違点を(表3)にまとめる。

医師のジェネリック医薬品に対する考え

ジェネリック医薬品についてH20 年11 月に足立区医師会会員に対してアンケート調査をおこなった。この結果より,臨床現場における医師がジェネリック医薬品に対して,どのように考えているのかを述べてみたい。対象は足立区医師会員559 名であり,回答者190 名,回収率33.99%である。回答者医療形態は開業医が67%,勤務医32%であり,専門性の内訳は,内科99名,小児科28名,整形外科17名,外科14名,産婦人科12名,皮膚科11名,耳鼻科11名,眼科9 名,神経科6 名,精神科6 名,泌尿器科3 名で,年齢は32〜85歳,平均年齢56.75歳であった。今回は16 にわたる質問項目のうちから,6 項目の質問に対する回答を紹介する。

ジェネリック薬品の副作用を経験したことのある医師は10%程度であり,そのときのメーカー対応についての質問では,「対応が遅く信頼が持てなかった」「まったく対応がなかった」の両者で50%を占めていた。またジェネリック薬品を処方したが,先発品にもどした経験がある医師に理由をたずねたところ,「効果不十分のため」が44%と最も多かった(図2)。

ジェネリック薬品

ジェネリック医薬品に対してもエビデンスは必要か? の質問に対しては,81%の回答者が「少数例であっても臨床成績は必要である」と回答しており,「エビデンスを得るための臨床研究がはじまれば参加するか?」の質問に対しては,「参加してよい」「状況によっては参加」の両者で52%であった(図3)。ジェネリック医薬品の今後について,国民皆保険制度の維持にジェネリック医薬品は必要か? に対しては,55%の回答者が必要であると回答し,今後のジェネリック薬品の処方については,「今後使用していきたい」18%「安心できるものであれば使用していきたい」60%と8割近くが今後使用していく意思があることが示された(図4)。

ジェネリック薬品

このアンケートの結果から,ジェネリック医薬品の使用に対して,必ずしも否定的ではないことがわかるが,ジェネリック薬品の処方に不安視する医師の言い分としては,
① 臨床試験なしで本当に先発医薬品と同等の効果があるのか? また,ジェネリック医 薬品どうしの効果は同等といえるか? ② 長期にわたり,安定供給されるのか?
③ 保険診療で処方する場合,承認の時点で先発医薬品と同じ効能が得られているか?
④ 処方した後にジェネリックに変更したことが原因でトラブルが発生した場合の責任の 所在はどうなるのか?
⑤ ジェネリック薬品を選択する場合,上記の不安を解消できる情報があまりにも乏しいなどの理由により,数多く出ているジェネリック医薬品のなかで「どの製剤が安心して(責任を持って)使える薬かわからない」というのが本音ではないだろうか。

おわりに

これら調査結果も踏まえて,今後ジェネリック薬品を普及させるためには,
①医師が安心して処方できる,または薬剤師が安心して変更できるような体制作りと情報の提供が必要である。
②ジェネリック薬品の精度管理を監視できるような第3者機関の成立。
③ジェネリック薬品を国民だけでなく,医師に対しても(安全面も含めて)理解させていくこと。等が必要ではないだろうか。このためには,各地域における普及活動と行政を中心とした地域独自性の協議会(医師会・薬剤師会・歯科医師会も含めた)などの設立が必要であり,行政・製薬会社・患者・医療のどのサイドからも納得できる体制作りと公正な情報の開示が必要であろう。

パネルディスカッション「市民の疑問に答える」

お薬情報書のみかた

谷田貝茂雄
東京内科医会理事 谷田貝茂雄

はじめに

図1 に最近の読売新聞「わたしの医見」をお示しします。ここに「のどが腫れ耳鼻咽喉科に行った。そこで医師は抗生物質を5日間投与し様子をみましょうと言った。調剤薬局でも特に副作用の説明はなかった。5日目急に下腹部が痛み出し,下痢の後で下血が始まり2日間苦しんだ。家庭用の医学書を調べると抗生物質の副作用と同じ症状だった。医師と薬局に経過を話すと『そういう事もある』。それではなぜ説明してくれなかったのか納得ができない」と掲載されています。

図1

抗生物質の内服が本当に必要な時

図2 に日本呼吸器学会の呼吸器感染症に関するガイドライン「抗菌薬(抗生物質)の適応となる患者様の症状,所見」をお示しします。当然,この患者様も「のどが腫れて耳鼻科へ行った」とのことで耳鼻科医はガイドライン通り(3)の扁桃腫大と膿栓,白苔付着で抗生物質を処方したと考えます。抗生物質を内服することで扁桃炎から早く回復すること,重症化して入院など回避すること,溶連菌の感染から急性糸球体腎炎を起こさないこと等「抗生物質を内服した時にこうむる利益が,まれにおきる副作用をはるかに上回る」と判断して処方したと推察されます

図2

抗生物質の副作用

抗生物質の副作用として図3にお示しするように,しばしば認める「食欲不振」「下痢」「発疹」などから,本当に極めてまれな「呼吸困難」「けいれん」「発熱」「咳」「倦怠感」などがあります。これらの副作用は,ごくごくまれではありますが起こる可能性は否定できません。「ゼロではない」ということです。

図3

医師と調剤薬局の薬剤師

そこで処方する医師と薬剤師は,内服した時に「体にいい影響がある説明」と「まれに起きる副作用の説明」を行うことになります。口頭で説明しても覚えきれない内容や特に注意することが「薬剤情報提供書」という,いわゆる「お薬情報書」に記載されています。「お薬情報書」を薬剤師から手渡される時に調剤薬局では「既往歴」「薬剤内服歴」「アレルギーの有無」などについて聞き取りがあります。その後処方箋の薬剤の内服方法が説明され手渡されるのですが「内服した時に,どのような効果が期待できるか」には十分な説明の時間がさけません。また「内服した時に自分にどんな副作用が出るか」は実際に内服してみないとわかりません。そこで「副作用等の説明が多く調剤薬局で効果や予防効果について説明が少ない理由」について調剤薬局の薬剤師のアンケートを行いました。

調剤薬局で内服薬の効果や予防効果について説明少ない理由

図4

その結果,図4にお示しする様に,第一位(33%)は「医師から説明があったのに再度薬剤師からの説明で患者様は混乱するかもしれない」でした。確かに改めて薬剤師から説明があっても今医師から聞いたことについて何か行き違いや受け取り違いの可能性もでてくるかもしれません。かえって患者様の不安が増える可能性があります。第二位(22%)は「時間が少ない」でした。確かに調剤薬局で数名の患者様がお待ちになっている時に初めて来た患者様で「既往歴」「薬剤内服歴」「アレルギーの有無」の聞き取りを行って「はじめて内服する薬の説明」とすすみ,あらためて薬剤の効果について説明は時間がとれないと考えます。また調剤薬局は個人個人で調剤指導が行われるわけではなく多くはオープンカウンターで他の方のお待ちになっている前での説明は決められた時間内になると思います。第三位(15%)は「病名がわからない」でした。たとえば抗生物質が処方されても「扁桃炎」なのか「急性大腸炎」なのか薬剤師は処方箋一枚からはわかりません。その効果や予防効果について説明はできません。第4 位(14%)は「保険点数に関係ないから」でした。調剤薬局の調剤報酬点数表には効果や予防効果について説明に対しての算定はありません。以上のように調剤薬局の説明には限界があります。よって「お薬情報書」の存在価値が出てくるわけです。

お薬情報書(薬剤情報提供書)についての検討結果

さきほどお話ししたように「お薬情報書」には,しばしば認める「食欲不振」「下痢」「発疹」などから,本当に極めてまれな「呼吸困難」「けいれん」「発熱」「咳」「倦怠感」など記載されており「なにを信じていいのかわからない」のが現実と思います。

我々は,医師12名と製薬会社の学術部員12名で検討を行い図5 のような問題点を指摘いたしました。問題点の第一位(21%)2 項目は「適切でない表現がある」と「もっと書かれるべき大事なことが書かれていない」でした。たとえば「気になる症状が出たら医師,薬剤師に連絡すること」などとあるが「気になる症状とは何か」など具体的ではない表現が目立ちました。実際に具体的な症状を書かないと患者様は副作用を申し出るのは困難ですが,その症状は多様であり個々の病気で症状が異なるので「具体的な表現」についての記載は難しいと思います。また「もっと書かれるべき大事なことが書かれていない」についても同じ薬剤でも効果が様々で処方箋からだけでは「病名」が薬剤師からわからないので記載は困難と考えます。たとえば高血圧症で内服する「β遮断薬」には「高血圧症」のほかに「不整脈」や「狭心症」の適応があります。よって調剤薬局の患者様への聞き取りから病名を正確に聞き出せないと情報提供も正確にできないのが現実です。第二位(12%)は「内服しなかった時に起こることが書かれていない」でした。「内服しないと,こんなことが起こります」ということも記載が必要ですが第一位と同じ理由です。内服しなかった時の症状は多様であり個々の病気で症状が異なるので「具体的な表現」についての記載は難しいと思います。第三位(11%)は「本来口頭で伝えるべき内容が書かれている」でした。これは「妊娠の有無」「授乳中か」など一般的に口頭で聞き取るべきことに情報提供書のスペースをとられているということです。その他「どの薬剤にもある副作用が書かれている」「患者様が不安になる内容が書かれている」などが問題点として出ました。薬剤情報提供書検討の結果をご覧ください(図6)。

図6

たとえば糖尿病の内服薬について

図7

図7 にお示しするように,たとえば糖尿病の内服薬でも大まかに4 分類の薬剤に分かれます。これらは「低血糖」という「冷や汗」「ふるえ」「意識朦朧」のような可能性のある薬剤から,「低血糖」を極めて起こしにくい薬剤まであります。そしてそれらの薬剤は患者様の病状や体質によって複雑に組み合わされて処方されるため画一的に起こりうる副作用や頻度を記載することはできません。

ではどうすればよいか

ではどうすればよいかですが,薬剤には必ず図8 のような「くすりのしおり」というものがあります。

図8

その薬剤の特徴,効果,効能も記載されています。飲み忘れた時,誤って飲み過ぎた時の対応も書かれています。ぜひとも長く飲む薬であれば一読することを強くお勧めします。図9 に読売新聞の切り抜き「かかりつけ金融機関を持ちましょう」という記載があります。許せない「振り込め詐欺」が後を絶ちません。「かかりつけ金融機関」は大切です。同じように「かかりつけ薬局」を持ち本日お越しの皆様の病気や過去の薬剤使用について十分に知っていてくれる信頼できる薬剤師を持つことが大切です。医師,薬剤師,患者様が信頼のトライアングルとなることが「安心して薬を飲める」ことなのです。「お薬情報書」の副作用や恐い記載にばかり目がいき期待できる肝心の「効果」についての理解が不十分なことが多いのです。信頼できる「かかりつけ医師」と「かかりつけ薬局」が必要なのです。それこそが皆様の健康を維持することにつながります。ご清聴誠にありがとうございました。

図8

パネルディスカッション「市民の疑問に答える」

健康食品・サプリメントについて

石川徹
東京内科医会理事 石川徹

まず,はじめにお話しておきます。健康食品・サプリメントは錠剤あるいはカプセルなど,薬のような形をしているものも含めて,「薬」ではありません,あくまでも「食品」です。健康食品についての明確な定義はなく,厚生労働省の「健康食品に係る制度のあり方に関する検討会」では「広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用される食品全般のことを健康食品と称し」としています。

健康食品が広く使われるようになったのは1990年代の後半からです。1996年に総理府の「市場開放問題苦情処理体制(OTO)」が米国からの市場開放,規制緩和の要求にこたえて健康食品の販売を解禁し1997 年からコンビニ,スーパーなどでビタミン類の販売が開始され,1998年からはハーブ類,1999年からはミネラル類,2001年からはアミノ酸がそれぞれ「食品」としての販売を許可されています。

健康食品の利用の増加に伴い,健康食品による健康被害がたびたび報告されており,最近でも新聞におおきく報道された事例もあります。こういった中,東京都医師会では東京都と協力して「健康食品の安全性に関する検討会」を設置して健康食品を安全に使用していただくために各種の検討をおこなっており東京内科医会からも2 名が委員として参加しています。

1.東京都食品安全情報評価委員会での検討による「健康食品を安全に利用するための12 のポイント」

①「健康食品」は,素材の種類や食べ方(加工)が一般の食品と異なることがあります.そのため,安全性については一般の食品よりも慎重に考えるようにしましょう.

「健康食品」には,なじみのない動植物や鉱物など,食経験のないあるいは乏しい素材が使用されているために,安全性に関して食経験を参考にすることができない場合があります。また,錠剤やカプセルなどに加工する際におこなわれる濃縮や抽出で,食材の性質が変化することにより,元の食材の食経験が参考にできない場合があります。

②「健康食品」は,あくまで食生活における補助的なものと考えましょう.

単に栄養を摂るということだけでなく,味や香りを楽しみ,食べることを楽しむことも健全な食生活のために必要なことです。また,身体に必要な成分には未知のものもあると考えられるため,「健康食品」から一部の栄養成分などを摂取することだけで,健康を維持することはできません。健康の維持・増進のためには,「主食,主菜,副菜を基本とするバランスのよい食事」をとることが重要といえます。「健康食品」は,食生活で十分に摂取することが難しい栄養成分などを補給する,食生活に対する補助的な役割のものと考えるべきです。

③「健康食品」は,病気や体の不調を治すものではないことを意識しましょう.

食品は健康の維持に対して一定の働きがあると考えられます。「健康食品」も同様です。しかし,「医薬品」のように病気や身体の不調を治療するものではありません。

④「健康食品」を利用する前に,普段の食生活で,本当に不足している栄養成分があるか,考えてみてください.

栄養補給を目的に「健康食品」を利用している人は多くいますが,ほとんどの栄養成分は,日本人の平均的摂取量からみると,「健康食品」からの摂取分を除いても,ほぼ必要な量に達しています。「健康食品」を利用する前に,食生活を振り返って自分自身に足りない栄養成分が本当にあるか検討してください。

⑤食品の機能を紹介する「健康情報」は,そのまま受け入れるのではなく,科学的な視点に基づく判断をおこなったうえで参考にしてください.

テレビ,雑誌,インターネットなどでは,特定の食材や成分に,健康に役立つ機能があるとする情報が様々に取り上げられています。こうした健康情報を参考にするときは,批判的な目を持って,科学的な信頼性を検討する必要があります。図に示す3 つのポイントについて確認できない健康情報は,科学的な根拠に乏しく,信頼性に足るものとはいえません(図1〜3)。

図1 図2 図3
⑥製品を選ぶ際には,表示や広告をよく確認してください.

「製造者や販売者などの名前や原材料の表示はありますか」「表示や広告に,お客様相談窓口などの連絡先が書かれていますか」「栄養成分やその他の含有成分の量などについて表示がありますか」「安全性や品質について不適切な説明をしていませんか」などしっかり確認してください。

⑦個人輸入やインターネットオークションを利用する際には,製品に関する情報の確認をしっかりしてください.

「健康食品」を個人輸入する場合,利用しても安全かどうかの確認は,購入者自身がおこなわなければなりません。またインターネットオークションでは,安全性に問題のある製品が流通していても把握することが困難です。個人輸入やインターネットオークションで「健康食品」を入手しようとする際には,十分に情報を収集し,少しでも安全性について疑わしい点がある場合には,購入を見合わせてください。

⑧保健機能食品制度について理解を深めることは,「健康食品」を利用するうえで重要なことです

保健機能食品には,国の定めに従って,機能や安全性に関する様々な情報が表示されています。保健機能食品の制度は,「健康食品」を選択・利用するうえで参考にできるものです。特定保健用食品(トクホ)については後ほどお話します。

⑨特定の成分を過剰に摂取しないように気をつけてください.

「健康食品」には,抽出や濃縮などの加工により特定の成分を多量に含有するものがあり,これらを過剰に摂取することで健康に悪影響を及ぼす可能性があります。複数の「健康食品」を利用する場合,気づかないうちに同じ成分を重複して摂取してしまうことがあります。過剰摂取を防ぐために,それぞれの製品の含有成分を確認しましょう。

⑩「健康食品」の利用期間や量などについて記録をとってください.

「健康食品」の適切な利用のためには,何をどれだけ摂取しているか,自分自身で把握することが大切です。「健康食品」を利用して,身体に不調を感じたとしても,「健康食品」との関連を証明することは簡単ではありません。そのため,何を,いつから,どのぐらい利用しているかということが,相談を受ける医療関係者にとって,とても重要な情報になります。

⑪体調不良を感じたら,すぐに利用をやめて医療機関を受診してください.

「健康食品」を利用した人の中には,「下痢をした」,「湿疹が出た」,「肝機能が低下した」等の体の不調が報告された例もあります。「健康食品」を利用していて体調不良を感じたら,すぐに利用をやめて,医療機関を受診してください。

図4
⑫治療を受けている人が「健康食品」を利用する場合には,医師や薬剤師などに相談してください.

現在,薬を飲んでいる人や治療を受けている人が「健康食品」を利用する際には,「健康食品」の利用状況について,必ず医師や薬剤師などに伝えてください。現在の治療を中断してはいけません(図4)。

2.特定保健用食品(トクホ)について

特定保健用食品は国が製品として有効性や安全性を評価し,承認した製品です。しかし,その名前が示すとおり,あくまでも「食品」です。高血圧や糖尿病など特定の病気を治療する薬の替わりになるものではありません。トクホは1991 年に制度化され,当初は医薬品と区別をするため,明らかな食品の形態をしていることが必須要件でしたが2001 年からは錠剤やカプセルでも許可されるようになり,2008年12月25日現在で825品目がトクホとしての表示の許可を受けています。

トクホにおいては通常の食品には認められていない「特定の保健の用途の表示」ができます。特定の保健の用途の表示とは「健康の維持・増進に役立つ,または適する旨の表現をする」ことと「医薬品のように病気の治療や治癒に対する効果の表現は認められていない」ことです。図に例を示しておきましたが,購入されるときにはこれらの内容をよく確認していただき,トクホに過大な期待をしないようにしてください(図5,6)。

図5 図6

3.子どもとサプリメント

「国立健康・栄養研究所」が2007年に全国各地で行った1,553人の調査では,幼児の15%がサプリメントを使用した経験があり,使用幼児の親も実に94.6%がサプリメントを使用していました。使用理由の6割は「栄養補給」目的で,その他では「健康増進」「病気予防」「能力アップ」「なんとなく」までありました。また利用製品の半数は「幼児用」のサプリメントでした。

そもそもサプリメントの子どもに対する有効性・安全性は検証されていません。幼児用サプリメントは味も形も食べやすくなっており,子どもが勝手に食べ過ぎてしまう危険もありますので特に注意が必要です。

4.最後に

健康食品の利用についてどんなことでもよいですから,普段からかかりつけ医に情報を提供してください。