救急過疎地、東京
先日テレビのクイズ番組を見ていたら「救急車搬送時間が一番長い都道府県はどこか?」という問題が出題されていた。ご存じの方もいるかも知れないが、答えはなんと東京都なのである。消防庁によると平成20年度の病院収容時間(119番通報から病院に収容するのに要した時間)が最も長いのは東京都の49.5分であり、2位の千葉県の40.7分を大きく上回っている(全国平均は35.0分)。しかも東京は5年以上にわたってワーストワンの座を守っているのだ。交通渋滞といった大都市ならではの特殊性も考慮しなければならないだろうが、119番通報から現場到着までの時間は8.9分と全国平均の7.7分から1.2分しか違わず、交通渋滞の影響はそれほど大きくないと思われる。
実は、東京は重症患者の搬送要請を医療機関が3回以上断ったケースが9.4%と全国平均の3.6%を大きく上回っており、収容先の病院が決まらないことが遅れの大きな要因となっているのだ。
ここで思い出されるのが脳出血を起こした妊婦が7病院に診察を断られ、収容先がなかなか決まらず死亡した2008年の事件であるが、それ以降も東京の救急事情はあまり変わっていないようである。大学病院や大病院が集中している東京でなぜこんなにも救急医療が壊滅的になってしまったのだろうか。
予算削減による医師不足や、近くにも他に救急病院があることからくる責任感の希薄さなどといった医療側の責任も大きいのは当然であるが、受診者側の意識の変化という問題も理由の1つに挙げられるのではないだろうか。大病院が多数ある東京では大病院にかかることに(物理的にも精神的にも)抵抗がなく、また、どうせかかるならなるべく大きな病院をといったブランド志向も強いため、どうしても大病院に患者が集中しがちである。そのため、急患を診たくても患者が多くて診ることができないといったことがおきてしまうのだ。
今年の春の診療報酬改定で「地域医療貢献加算」なるものが新たに導入された。これが夜間や休日における救急外来の負担軽減を目的としていることは想像に難くない。しかし、診療所における時間外の患者の対応はこれまでは医師の情熱と使命感でおこなってきたはずであり、これを制度化すればそこに義務(=契約)が生ずる。実際にトラブルに巻き込まれるのが嫌で、「地域医療貢献加算」を算定しない医師も多く、届け出率は3割にも満たないようである。
また、「地域医療貢献加算」を算定しなければ、時間外は患者からの問い合わせに答える必要はないという論理も成り立つわけで、これではむしろ救急医療の崩壊を加速することになりかねない。
このような机上の空論から出たような制度でお茶をにごすことなく、荒廃している救急医療に対する根本的な改革が必要ではないだろうか。それこそ救急医療の現場は待ったなしなのだから。