会誌:第26巻−1号[目次]

東京内科医会 市民セミナー2010,第24回 日本臨床内科医学会,東京内科医会 心臓・頚動脈エコー実地研修会,川上記念賞第2回受賞者決まる
巻頭言
救急過疎地、東京東京内科医会 理事 木内 章裕
東京内科医会 第23回 医学会
[教育講演]
病期に応じた糖尿病性腎症の治療馬場園 哲也
関節リウマチ診療の進化―Care to Cure―山中 寿
[一般演題]
ストレス・うつ・不眠と中心血圧・AIについての検討牧野 洋
東京内科医会 第26回 セミナー
健康補助食品とは丹羽 正幸
健康食品の有害事象報告について―東京都の取り組み―菅原 正弘
健康補助食品と皮膚症状大路 昌孝
健康(補助)食品の臨床現場での可能性―フロメドRの取り組み―清水 恵一郎
東京内科医会 臨床研究会
冠攣縮性狭心症により多彩な病態を示した1例小川 和男
冠攣縮性狭心症の診断と治療南井 孝介
術前化学療法に異なった薬剤感受性を示した乳癌2症例市場 保
特集 診療報酬改定(平成22年度)
総論および診療所の立場から清水 恵一郎
中小病院の立場から青井 禮子
在宅医療の立場から神津 仁
ひろば

先輩医師をたずねて(4)池田精孝先生(調布市医師会)

俳 句鈴木 良戈,山下 公三
理事会報告
会員の動向
投稿規定
編集後記石川 徹

救急過疎地、東京

東京内科医会 理事 木内 章裕

先日テレビのクイズ番組を見ていたら「救急車搬送時間が一番長い都道府県はどこか?」という問題が出題されていた。ご存じの方もいるかも知れないが、答えはなんと東京都なのである。消防庁によると平成20年度の病院収容時間(119番通報から病院に収容するのに要した時間)が最も長いのは東京都の49.5分であり、2位の千葉県の40.7分を大きく上回っている(全国平均は35.0分)。しかも東京は5年以上にわたってワーストワンの座を守っているのだ。交通渋滞といった大都市ならではの特殊性も考慮しなければならないだろうが、119番通報から現場到着までの時間は8.9分と全国平均の7.7分から1.2分しか違わず、交通渋滞の影響はそれほど大きくないと思われる。

実は、東京は重症患者の搬送要請を医療機関が3回以上断ったケースが9.4%と全国平均の3.6%を大きく上回っており、収容先の病院が決まらないことが遅れの大きな要因となっているのだ。

ここで思い出されるのが脳出血を起こした妊婦が7病院に診察を断られ、収容先がなかなか決まらず死亡した2008年の事件であるが、それ以降も東京の救急事情はあまり変わっていないようである。大学病院や大病院が集中している東京でなぜこんなにも救急医療が壊滅的になってしまったのだろうか。

予算削減による医師不足や、近くにも他に救急病院があることからくる責任感の希薄さなどといった医療側の責任も大きいのは当然であるが、受診者側の意識の変化という問題も理由の1つに挙げられるのではないだろうか。大病院が多数ある東京では大病院にかかることに(物理的にも精神的にも)抵抗がなく、また、どうせかかるならなるべく大きな病院をといったブランド志向も強いため、どうしても大病院に患者が集中しがちである。そのため、急患を診たくても患者が多くて診ることができないといったことがおきてしまうのだ。

今年の春の診療報酬改定で「地域医療貢献加算」なるものが新たに導入された。これが夜間や休日における救急外来の負担軽減を目的としていることは想像に難くない。しかし、診療所における時間外の患者の対応はこれまでは医師の情熱と使命感でおこなってきたはずであり、これを制度化すればそこに義務(=契約)が生ずる。実際にトラブルに巻き込まれるのが嫌で、「地域医療貢献加算」を算定しない医師も多く、届け出率は3割にも満たないようである。

また、「地域医療貢献加算」を算定しなければ、時間外は患者からの問い合わせに答える必要はないという論理も成り立つわけで、これではむしろ救急医療の崩壊を加速することになりかねない。

このような机上の空論から出たような制度でお茶をにごすことなく、荒廃している救急医療に対する根本的な改革が必要ではないだろうか。それこそ救急医療の現場は待ったなしなのだから。