医療における規制改革とは
今年は2年に一度の診療報酬点数の改定が行われる年であり、本号が出版される頃にはその詳細が明らかになっているだろう。単なる財政的視点ではなく、今後あるべき日本の医療を正しい視点で希求し、その実現のために最適な医療環境を提供する医療政策的観点からこのたびの改定が合理的に行われることを期待している。
社会保障制度改革国民会議など種々の国民会議委員を歴任している権丈善一教授は、「医療政策の根幹は市場に任せておくと脅かされる恐れのある“医療の平等性と安全性”を保障することにある」と述べている。一方、経済界や経済産業省などからは、医療および医療サービスの領域は新たな成長産業の場であり成長戦略の要としてとらえられている。したがって、皆保険制度を守るための諸規制は、彼らのビジネスや権益拡大を阻むいわゆる“岩盤規制”として日々非難の的とされている。彼らはこの岩盤規制を突き破り市場に解放すること、すなわち「規制改革」こそが正義であると主張する。
医療分野における規制の大半は、元来国民を守るために設けられたものであるにもかかわらず、現代の日本では「規制」はあたかも利益集団を守る忌避すべきものと見なされる傾向が強い。しかし、「医療の平等性と安全性」を担保するためには、市場の力を適正に封じ込めるためのルールは必要不可欠である。したがって、これらの規制の多くは“悪しき”ものではなく、むしろ緩和したり撤廃したりすべきものではないと考える。
一方で彼らは医療の平等性・公平性の根幹をなすフリーアクセス制には医療費増大の元凶として反対の立場を取り、むしろこれを規制しようとする。このように、経済や財政を最優先する近視眼的な圧力によって、「規制」が歪められてしまう危険を看過することはできない。
ただし、本邦では来るべき超高齢化社会における医療・介護および福祉の急速な需要増大に正面から向き合おうとせず、必要な負担増を長期間先送りしてきたために国家的財政難という難題に直面している。社会保障制度改革国民会議は、「皆保険の維持、我々国民がこれまで享受してきた日本の皆保険制度の良さを変えずに守り通すためには、医療そのものが変わらなければならない状況にある」と報告している。
確かに国民皆保険制度ひいては国民医療そのものを守るためには、医療の供給のあり方に関する適切かつ大胆な改革を実現させることが喫緊の課題であることに異論はない。実際の医療環境と需要に沿って適正に医療供給体制が改革されるためには、「経済界や官僚主導ではなく、医療現場で働く医師みずからが受益者である国民と共に改革を主導し、これを国が全面的に支援する」というコンセンサスを確立することこそが焦眉の急である。我々東京内科医会には、医療を取り巻く厳しい現実の中で、内科医療の最前線で国民・都民の健康を守るという責任ある立場から医療政策の動向を注意深く見守っていく姿勢が求められている。