会誌:第32巻−2号[目次]

東京内科医会第33回セミナーのお知らせ
東京内科医会第30回医学会のお知らせ
第34回日本臨床内科医会総会のお知らせ
平成28年度“川上記念賞”受賞候補者推薦のお願い
巻頭言
Pepper君と会って考えたこと東京内科医会 理事 大西 真由美111
特別寄稿

“貪欲な腎臓”と糖尿病伊藤 裕

112
東京内科医会 第202回臨床研究会

起立歩行障害を主症状とした小脳・脳幹梗塞小川 克彦

118

神経感染症の診断と治療森田 昭彦

123

無症状で遷延する低ナトリウム血症を呈した30代男性蓮見 禎行

127

電解質(Na,K)異常の診断と治療相馬 正義

130
東京内科医会 第203回臨床研究会

難治性ネフローゼ症候群の診療福家 吉伸

137

心房細動のマネージメント奥村 恭男,他

142
[東京内科医会 第203回臨床研究会 抄録]150
医療連携室紹介

日本大学病院における病診連携松本 直也,他

152
特集 平成28年度診療報酬改定とかかりつけ医機能

平成28年度診療報酬改定の解説と影響清水 惠一郎

154

平成28年度診療報酬改定とかかりつけ医機能鈴木 邦彦

162
ひろば

先輩医師をたずねて(22)野口ケイ子先生(目黒区医師会)

173
俳句鈴木 良戈174
訂正とお詫び175
理事会議事録176
会員の動向179
投稿規定180
編集後記183

Pepper君と会って考えたこと

東京内科医会 理事 大西 真由美

10月9日、10日と、新宿京王プラザにて、第30回日本臨床内科医学会が開かれたが、9日の会場にPepper君がやってきていた。インターネットからさまざまなアプリをダウンロードすることで、一般的な会話だけでなく、人を楽しませることもいろいろできるようだ。人好きのする表情にすっかり魅せられて一緒に写真まで撮ってしまった。すでに、ハウステンボスの「へんなホテル」の受付はロボットだそうだから、医院の事務的な受付もPepper君のようなロボットにとって代わられそうだ。

そういえば、2020年の東京オリンピックを前に、外国人の受け入れ態勢の整備も着々と進んでおり、外国人向けの医療保険会社と受け入れ医療機関との間の契約も始まっている。当医院でも、英語での問診票や説明文書の準備を始めている。

ただ実際診療するとなると、英語なら対応可能だが、中国語やタガログ語となると、もうダメ。人工知能(AI)を搭載したロボットにでも通訳してもらえると、本当に助かるはずだ。コミュニケーションには、音声だけ変換すれば良いというのではなく、身振りやイントネーションが大切になる。そういう意味で、身振り手振りと「表情」を出せるPepper君に、そういう医療系の逐次通訳アプリがダウンロードできるようになっているといいなあ(できれば2020年までに)と夢想した…ところで、ちょっと考えた。

30年前は、まだ携帯電話もなかったしインターネットもなかった。たった一世代で、私たちは溢れんばかりの電子情報に囲まれるようになり、それに依存するようになってしまった。

自動運転の自動車も発売されたし、IoT(Internet of Things)で、われわれの周囲にある冷蔵庫やコーヒーメーカーといった「モノ」がインターネットで互いに繋がっているという状況にもなりそうだ。そして、私たち自身がSNSで発信する情報と、自動車に積まれたGPSや私たちの生活環境にあるさまざまな「モノ」が発信する情報とで、ビッグデータは形成されていく。ビッグデータをもとに、人間の生活をより便利にするという目的で、個々人にカスタマイズされた情報が提供されていく。実際はもっぱら商業的な目的のために…。

ただし、マーケティングのためでなく、真に危機管理のためにビッグデータが使用されるのは、大いに歓迎すべきことと思う。たとえばグーグル社は、検索キーワードの使用頻度とインフルエンザ感染の時間的空間的な広がりの相関関係を分析して、米国の公衆衛生当局よりも早くインフルエンザ流行の予測に成功した。ビッグデータの分析も人間が指示するわけだから、下手をすると「風が吹くと桶屋が儲かる」的な、間違えた因果関係が導き出されてしまうが、この危険性さえ認識して分析結果をうまく使えば、より安全で快適な生活を享受できるだろう。

その一方で、このような恩恵をこうむることができるのは、人類の何パーセントになるだろう。地球温暖化の影響で、今日飲む水の確保をまず考えなくてはいけない人がいる。着の身着のままで、生まれ育った国から逃げ出さなくてはならない人がいる。そういう人たちに恩恵がいきわたるまで、私たちの社会は待てるだろうか。

古代ギリシャ社会で哲学が発達したのは、奴隷が身の回りのさまざまなことをやってくれたお陰で思索をする時間が生まれたからだ。近い将来、マシンとAIが日々の些事をやってくれるようになる。そこで生み出だされた時間を、人間にしかできない思索や行動にあてて、何のためのAIなのか、IoTなのか、ビッグデータなのか、忘れないように、ぶれないように、目を見開いて、耳を澄ませて、皆が受益者になれるような世界を創造したいものだ。