Pepper君と会って考えたこと
10月9日、10日と、新宿京王プラザにて、第30回日本臨床内科医学会が開かれたが、9日の会場にPepper君がやってきていた。インターネットからさまざまなアプリをダウンロードすることで、一般的な会話だけでなく、人を楽しませることもいろいろできるようだ。人好きのする表情にすっかり魅せられて一緒に写真まで撮ってしまった。すでに、ハウステンボスの「へんなホテル」の受付はロボットだそうだから、医院の事務的な受付もPepper君のようなロボットにとって代わられそうだ。
そういえば、2020年の東京オリンピックを前に、外国人の受け入れ態勢の整備も着々と進んでおり、外国人向けの医療保険会社と受け入れ医療機関との間の契約も始まっている。当医院でも、英語での問診票や説明文書の準備を始めている。
ただ実際診療するとなると、英語なら対応可能だが、中国語やタガログ語となると、もうダメ。人工知能(AI)を搭載したロボットにでも通訳してもらえると、本当に助かるはずだ。コミュニケーションには、音声だけ変換すれば良いというのではなく、身振りやイントネーションが大切になる。そういう意味で、身振り手振りと「表情」を出せるPepper君に、そういう医療系の逐次通訳アプリがダウンロードできるようになっているといいなあ(できれば2020年までに)と夢想した…ところで、ちょっと考えた。
30年前は、まだ携帯電話もなかったしインターネットもなかった。たった一世代で、私たちは溢れんばかりの電子情報に囲まれるようになり、それに依存するようになってしまった。
自動運転の自動車も発売されたし、IoT(Internet of Things)で、われわれの周囲にある冷蔵庫やコーヒーメーカーといった「モノ」がインターネットで互いに繋がっているという状況にもなりそうだ。そして、私たち自身がSNSで発信する情報と、自動車に積まれたGPSや私たちの生活環境にあるさまざまな「モノ」が発信する情報とで、ビッグデータは形成されていく。ビッグデータをもとに、人間の生活をより便利にするという目的で、個々人にカスタマイズされた情報が提供されていく。実際はもっぱら商業的な目的のために…。
ただし、マーケティングのためでなく、真に危機管理のためにビッグデータが使用されるのは、大いに歓迎すべきことと思う。たとえばグーグル社は、検索キーワードの使用頻度とインフルエンザ感染の時間的空間的な広がりの相関関係を分析して、米国の公衆衛生当局よりも早くインフルエンザ流行の予測に成功した。ビッグデータの分析も人間が指示するわけだから、下手をすると「風が吹くと桶屋が儲かる」的な、間違えた因果関係が導き出されてしまうが、この危険性さえ認識して分析結果をうまく使えば、より安全で快適な生活を享受できるだろう。
その一方で、このような恩恵をこうむることができるのは、人類の何パーセントになるだろう。地球温暖化の影響で、今日飲む水の確保をまず考えなくてはいけない人がいる。着の身着のままで、生まれ育った国から逃げ出さなくてはならない人がいる。そういう人たちに恩恵がいきわたるまで、私たちの社会は待てるだろうか。
古代ギリシャ社会で哲学が発達したのは、奴隷が身の回りのさまざまなことをやってくれたお陰で思索をする時間が生まれたからだ。近い将来、マシンとAIが日々の些事をやってくれるようになる。そこで生み出だされた時間を、人間にしかできない思索や行動にあてて、何のためのAIなのか、IoTなのか、ビッグデータなのか、忘れないように、ぶれないように、目を見開いて、耳を澄ませて、皆が受益者になれるような世界を創造したいものだ。