説明責任 ―専門職は説明責任を負う―
私は東京都国民健康保険団体連合会の介護保険苦情処理委員会副委員長として利用者の苦情処理問題に携わっているが、介護の分野では「説明」に関する苦情が大変多い。平成19年度の苦情は「従事者の態度に対する苦情」が21.6%ともっとも多く、次いで、「説明・情報の不足に対する苦情」が19.8%で、「サービスの質に対する苦情」が19.5%であった。介護保険制度で、サービスの提供者側と利用者との関係は対等な立場となり、利用者がサービスに関する情報を受け、選択し、契約をする。事業者は利用者の選択に基づき、契約の内容に基づいたサービスを提供するが、利用者は選択肢となる情報の収集が十分でないため、事業者による情報の提供と説明が必要となる。この場合、情報が選択に役立つ説明になっているか? 利用者が内容を十分に理解しているか? 利用者は自ら選択して決定したのか? 以上3点の過程を経なければ契約は成立しない。
介護の分野で、「説明」とはそもそもいかなる内容であろうか。説明とは、サービスの種類、その具体的な内容、費用と効果を相手が理解できるように正確に提示することである。この時、提供される情報は正しく・正確な情報でなければならず、専門語を用いず、分かりやすい・理解しやすい言葉で具体例を挙げて丁寧に行わなければならない。説明者の話し方・態度・信頼関係の構築が影響することが大きいので、説明者側の資質・技術・態度を研鑽する必要がある。
委員会での定例会議終了後、いつも考えることは、医療の分野での「説明」が果たして十分に行われているのか? である。医師の「説明」は、患者が自己決定と選択をするためであるから、医学的知識のない患者の立場に立って、分かりやすくしなければならない。具体的には、説明は一方通行であってはならず、患者が理解できているかどうかを確かめながら話さねばならない。医師の説明義務については、患者の身体に対する医的侵襲を行うにあたり患者の承諾を得るための説明義務と、診療中あるいは診療後に発生が予見される危険ないし、悪い結果を回避するために患者にその対処方法を説明する、という療法等の指示・指導としての説明義務がある。医師に説明義務があるのは、患者の自己決定権を保障するためであり、したがって、説明を受ける患者は、個人差があるため、分かりやすく説明する必要がある。
介護保険施行後、介護の分野でサービスを提供している事業者を種々のトラブルが悩ませているが、前述のように「説明不足」に起因する部分が多い。我々も日々の診療において患者が納得するまで説明することが、良好な医師と患者の関係構築の第一歩であると考える。